第2回 : 宮治淳一さん



レコードを求めて歩き回ったアメリカ

-本格的にレコードを買い始めたのはいつ頃からなんですか。
 大学卒業する1978年に初めてアメリカに行ったんですよ。もうこの時期を逃すと2度と行くことができないと思ったんです。行ってみてレコードの安さに驚きました。まだその頃日本では、輸入盤のシングル盤とか中古LP盤とか殆ど売っていなかった。日本盤の中古盤がハンターなんかに置いてありました。それまでは日本盤のシングル盤を「ソース」という意味でよく集めていたんですけど、アメリカに行って日本盤のシングルに興味がなくなりました。とにかくアメリカのシングル盤の太い「音」が魅力的だったんです。

 それから(コレクションの方法の)スタンスは殆ど変わっていないです。まだ古いヒット曲のオタクでしたから、ビルボードのレコード・リサーチが出た時はよく見てましたね。トイレで「今日はB欄を見ようとか」(笑)。ボロボロになるまで見てました。キャプションが掲載されていて、どこどこ生まれとか、よく読んでいましたね。

 78年は佐々木さんといっしょにアメリカへ行ったんです。神谷さんがよくメールオーダーで買ってくれていたエルパソのレコード屋さんに朝着いて、電話したら向こうも驚いてました。「日本から来た」って言ったら「じゃ、今から来なさい」って。それで、泊めてくれたりしてね。そこはレコード屋さんなんだけど、実はレコード屋というのは仮の姿で、その奥の一軒ぐらいの部屋が全部レコードの倉庫なの。おそらく全部見れないなって思ったんだけど、泊まらせてくれるって言うから、じゃ、ここで寝ていいかって、倉庫に布団みたいなのを出してもらって、とにかく疲れて眠るまで見ようっていうことなりました。そこで JDS の Barry Mann のデビューシングルを見つけましたね。おそらく 100分の1 しか見られなかったです。そしてその後、私たちが一番やりたかった Buddy Holly のお墓参りに行きました。

 日本で中古レコード屋とかまわっていた人間からすると、まるで世界が違う。日本って割とキレイにやってる。アメリカは全然そうじゃない。どういう風にやって生活してるの?って聞いてみたんです。どういうタイミングでリスト作って出しているのか聞いみたら、お金がなくなったらリスト作るんだって。で、リストはどこから作るんだって聞くと、その辺から適当にどっこいしょっとレコードが入っている箱を出してきてリストに打ち込む。お金になると少しやめて、お金がなくなってくると、またそれを繰り返す(笑)。

 85年に最初に勤めたレコード会社が閉鎖することになり、辞めたのを契機にアメリカにもう一度行きたいと思いまして、85年にもう1回アメリカへ行きました。なんと、行く前に就職が決まっちゃった。もうチケット買っちゃってあるから勘弁してくれって言って、なんとか入社を1ヶ月遅らせてもらった経験があります(笑)。

-まずアメリカ行ってホテルに着いたら、レコード店に電話して、一軒一軒チェックしてって、洗い出すって感じですか?
 デトロイトとか大きな都市に行くわけですよ。グレイハウンドなんか乗ると夜出て朝に着くわけです。そうすると一泊分儲かるわけですよ。お金も儲かるし、寝てる間に移動できちゃう。それで、一番近くの安宿みたいなところに電話するんですよ。チェックインするとだいたいそこのイエローページでレコード店をチェックするんです。

 初めて行ったところで電話番号と住所しかわからない。しょうがないから、着くとだいたい1ドル25セントぐらいで地図を買うんですよ。広げて一つずつ赤く印をつけていく。アメリカって道路全部が番地になってるから道さえ分かれば、だいたい順番になってるんですよ。なんとなく分かって、次に郵便局を探す。その日はそこに泊まって、朝一で今度は郵便局に行って船便でレコードを出す。もう帰ってきたら大変。最初の頃に出したやつは着いてるわけですよ。もう、その時点でいろいろダブってたり。

-アメリカに行って買ったレコードが今のコレクションの基本になってたりするんですか?
 いや、まだあまりなってないですね。それでもおそらく1000枚くらい増えました。

-やはりロサンゼルスに住んでいた頃に一気に増えたんですか?
 うん。でも僕はアメリカに住む前、The Ventures の監修を頼まれた頃に仕事でアメリカにしょっちゅう行っていました。行くって言っても2週間しかないわけ。その時は2人で行ってたんだけどそいつと車をシェアしなきゃなんないから。日曜日になると東海岸はレコード店が閉まっちゃうんですよ。だから、そいつは日曜日に車を使って、土曜日は僕が使って(笑)。土曜日にレコード買いに行って、はい、日曜日どうぞって。で、結果的に91年に現地に赴任になっちゃった。今ある7割から8割がその時代のものです。

 ヒットした曲をシングル盤でいい音で聴きたいということと、一度も聴いたことのない良い曲に出会いたいという、この2つを満たそうと思うと1枚1枚が10ドルも20ドルもしていたら、たまんないわけですよ。だけど安いものの中にもいっぱい良い曲があるから。

 アメリカの場合は元々土地もいっぱいありますし、レコードなんか、前に出してあるからお前ら勝手にもってけって感じで。だからABC順になってるところなんてほとんど無い。ABC順になっているレコード店はそれなりのグレーディングをしてある。そういうところは確かに見つけやすいんだけど高い。関係なく箱詰めになってるところは見つけづらいけど安いんです。

ロングビーチに行ったんだけど、そこでシングル盤が500箱ぐらいあったことがあったんです。それは向こうから電話がかかってきて、「お前、シングル盤集めているんだろ?今週入るぞ」って言うんで行ってみたら、僕みたいな人間が20人ぐらいもう来てるわけ。でもどれも同じ箱だからどれを見たか全然解んない。他のやつも箱を動かすから(笑)。

それでしょうがないから、自分が見た箱は(宮治の)「M」ってマジックで書き込む(笑)。今度は書いてない箱に行く。その中で、最後の5箱ぐらいのところで Roger Nichols の「The Drifter」のシングル盤を見つけました。B面が「Trust」という曲。これでRoger Nichols は完璧になりました。

-宝捜しですね。
 僕は農耕民族じゃないってよく分かったね。ハンターなんだな(笑)。計画的に何かをやるって言うのは苦手みたい。どっちかっていうと人生は計画的なことが多いので、趣味ぐらいは偶然に「出会い」があった方がいいんじゃないかという気がしています。



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