2000/04/02Sunday Song Book「盗作・パクリ・似たもの特集 Part2」 山下達郎/Love Can Go The Distance 1999『On The Street Corner 3』 Ray Kennedy/You Oughta Know By Now 1980『Ray Kennedy』 *1 八神純子/パープル・タウン 1980 *2 Isley Jasper Isley/8th Wonder Of The World 1987『Different Drummer』 菊池桃子/ナイル・イン・ブルー 1987 竹内まりや/ドリーム・オブ・ユー(レモンライムの青い風) 1979 Single *3 Donna Summer/I Remember Tomorrow 1977 チェキッ娘/ドタバタギャグの日曜日 1999 Ocean/Put Your Hand In The Hand 1971 *4 Led Zeppelin/Rock And Roll 1971『Led Zeppelin IV』 Little Richard/Keep A Knockin' 1957 *5 Puff Daddy & Friends/I'll Be Missing You 1997『No Way Out』*6 The Police/Every Breath You Take 1983『Synchronicity』 キー・オブ・ライフ/Motion & Emotion 1996『Key Of Life』 チャー/Smoky 1976『Char』 Louis Armstrong, Danny Kaye, etc/Goodnight, Sleep Tight - Lullaby In Ragtime - The Five Pennies 1959『The Five Pennies』OST *7 *1 元KGB (Carmine Appiceのバンド)、後にMSG。Ray Kennedy & David Foster作。 *2 オリコン2位。 *3 シングルバージョン。未CD化音源。 *4 全米No.1ヒット。邦題は「サインはピース」(Dunhillレーベル) *5 DrumsはEarl Palmer。 *6 作者クレジットにはStingの名が一応ある。 *7 1920〜30年代のDixieland Jazzの名Cornet奏者、Red Nicholsの半生を描いた 伝記映画「五つの銅貨」より。主演Danny Kaye。 内容の一部(鈎括弧内は達郎氏のコメント) ・近況 「実はまた自分の曲のタイアップの仕事が入って来て、曲作りをやっているの だが、何週間か前に言ったけどコンピュータがぶっこわれて、直ってきたけど まだ調子が悪い。コンピュータが無いとどうしようもなく、いかに自分の生活 にコンピュータが密接に関わっているか思い知らされた。この二週間、無駄な 時間と労力をドブに捨てたという虚脱感・無力感に付きまとわれている。早く 立ち直りたいと思う。」 ・プレゼント オンスト収納ボックスとエプロンの当選者は来週発表。 ・特集の内容 「新年度なのに全然関係ない流れ(笑)。似ているものを聞き比べて、どんなも のが盗作で、どんなものがオマージュやリスペクトなのか、よくわかりません が最近のそうした言葉遊びについてちょと考えてみようという企画。しかしこ れはあれのパクリだなどと安手のメディアがよくやるような内容ではありませ ん。今回は邦楽中心なのでえぐい内容。盗作というのは作曲・編曲・演奏など が絡み合う微妙な問題なので、なるべく作曲者と編曲者が違う作品を取り上げ ます。」 「日本のニューミュージックの世界で最も有名な騒ぎになったのが、1980年の 八神純子さんの「パープルタウン」が同じ年のRay KennedyというAORシンガー の作品にそっくりだとされた問題。アレンジもそっくりならメロディーも同じ。 これに大クレームが来て、後からRay Kennedy & David Fosterの作曲者クレジッ トが入れさせられ、タイトルまで入れさせられたという曰く付きの一曲。同じ 年じゃ仕方がないですな。同業者として今でも不思議なのは、一番印象的なフッ クの「♪パープルタウン」という所のメロディーはRay Kennedyの曲にはない。 AメロBメロのところだけメロディーとアレンジが同じなので、だったらパクら ないで「♪パープルタウン」だけ使って1曲作ればいいのに。それは作曲家の センスか編曲家のセンスなのか今一よくわからない。八神さんは「水色の雨」 もNeil Sedakaの曲にアレンジがほとんど同じというのがありまして、よくわ かりません、私のセンスとは程遠いというか。」 「一般的に盗作とかいわれるのは作曲、メロディーが似てる似ていないという 問題だが、その他に編曲的な問題がある。特に昨今は詞・曲・編と総力戦とし ての音楽において、編曲的なファクターが非常に大きい。そういう中で今まで 凄いなと思うものを色々聞いて来たけど、これは凄い・極め付けというのが菊 池桃子さんの1987年「ナイル・イン・ブルー」というヒットシングル。元ネタ が同じ年のIsley Jasper Isleyの同じ年のシングル。同じ年にやっちゃいけな いと思いますが(笑)。これも作曲家と編曲家が違うのでどちらの意図だかわか りませんが、たぶん相談してディレクターが「こういう曲作ってくださいよ」 と言ったんだと思う。これは似てる/これは似てないなど、個人個人いろいろ な意見があるでしょうが、これは誰が聞いても似ていると思うでしょう(笑)。 せめてキーぐらい変えろといいたい。歌っている菊池さんには何の責任もない のが可哀想ですが(笑)。」 「こんなに全体的な世界でなくても、部分的に持って来るケースも幾らでもあ ります。これを剽窃などと言ったりします。身内ですが、竹内まりやの1979年 のシングル「ドリーム・オブ・ユー」はイントロがDonna Summerの1977年の曲 のものと全く同じ。シングルが出た後でまりや以下、ディレクターなど全員が 気が付いた。これまた作曲家と編曲家が別でどういう意図でそうなったのかわ かりません。お聞きいただいたように歌のメロディーになると違うのですが、 イントロはほぼ同じ。明らかにDonna Summerの物から持って来たのだろう。ディ レクターは激怒してこのバージョンはボツになり、アルバムバージョンは私が 編曲する羽目になりました。よってこのシングルバージョンは未CD化で、今後 CDになることはないでしょう。こういうパターンは歌謡曲なら日常茶飯事でよ くあること。」 「いろいろな方からお便りをいただいたが、中でも一番面白かったのがこれ。 『現在ヒット中の(チェキッ娘の)曲があまりにも昔のOceanの有名曲に似てい るので、それを作曲したミュージシャンのHPの掲示版に書き込んだところ、大 騒ぎになりファンが猛反発をしたとのこと。ファン曰く"それは彼のセンスの 良さの現われ"、"そんなのロックじゃ当り前"、"ちゃんと原曲を消化していれ ばパクっても構わない"、更には"過去の名曲を現代に蘇らせるのだから彼に感 謝すべき"などという暴論まで出る始末。著作権はどうなんだ、印税は彼に入 るんだぜというと、"彼はお金儲けの為に音楽をやっているんじゃない"』…あ なたね、ファンのHPにこんなこと書いたってダメですよ、無駄ですよ。あばた もえくぼなんだから。アイドル歌謡はこういうもののオンパレードですからね。 まあ私の個人的な感想ですけど、菊池桃子さんのを聞いた後だと何でも許せちゃ う感じ(笑)。」 「前半だけ聞いていると完全な弾劾裁判ですが、先週からの流れで聞いていた だければ、全然そんなことはないと、先週お聞きになったリスナーならおわか り頂けると思います。」 「長いことラジオのレギュラーをやってますが、今日の前半は自分の好きな曲 がほとんどかかっていない。特集の性質上仕方がないですが、これちょっと疲 れる(笑)。」 「昔は盗作などというとネガティブで許しがたい行為というニュアンスがあっ たが、今のお若い方の間ではパクリなんて言葉は軽くしか使われない。価値感 がまた倒錯している。オマージュ・リスペクト・コラージュ、言えば言えるも んだというか。滋賀県のある方のお便りによると、自分のHPにパクリのネタを 挙げてらっしゃるとのこと。明らかなパクリ(海外編・歌謡曲編)、オマージュ 編、逆パクリ、なんだか良くわかんないんですけど(笑)。もっとやることない のかな。昔Dylanistという人達がいまして、Bob Dylanの歌詞を深読みして、 これはきっと彼はこう言ってんだとか、そういうのと近い感じがします。私の ネタも沢山ありますが、全然的外れ(笑)。世代や人によりいろんな見方がある というのは確かです。」 「要するに盗作かどうかは、どれだけの必然性があるか、歴史とか伝統とかと 深く関わりあっている。ロックンロールも一つの形式の上に行われている音楽 なので、先程のようにイントロを持って来たら何でも盗作になるかというと全 然そんなことはない。元から持って来たものより質的にオーバーしていれば、 それはパクリとは言われない。一例として先週も登場したLed Zeppelinの名作 「Rock and Roll」のイントロを。この曲はスタジオでリハーサルをしている 時にドラムスのJohn Bonhamが大好きなLittle Richardの「Keep A Knockin'」 というスタンダードのイントロを叩きだしたら、それにJimmy PageとJohn Paul Jonesが合わせて、この曲ができたと言う伝説的な逸話がある。John BonhamはきっとEarl PalmerのDrumsが好きなので遊びでバーンとやったのだろ う。しかしそこは只では起きないLed Zeppelin、全く同じじゃありません。い つもの通りに半端な拍数で、どこが頭かわからないように始める。で、全然違 う曲なのに、どこか色合いが似通っている。これがロックです。こういうのは 褒められる。必然性があるんですね。先程の「ドリーム・オブ・ユー」とは違 う世界(笑)。」 「盗作とかがなぜ現代では重要視されなくなってきたかというと、80年代の終 りからサンプリングという手法が登場したから。既成の音楽を取り込んで、そ れにループというリピート機能を付けることで、元は何かの曲の部分だったの が、新しい素材として別の曲が作られる。美術で言うところのコラージュの手 法が音楽に取り入られたもの。その恩恵を一番預ったのがラップとかヒップホッ プとかいうメディア。こうなるとどこまでがオリジナルなのか、全く今までの オリジナリティという概念が崩壊していく。最近の最も極端な例が1997年の Puff Daddyのメガヒット。これの元になっているのがPoliceの1983年のNo.1ヒッ ト「見つめていたい」。これはイントロに歌が入っていないので、この曲をそ のままループにして新しい曲を作っている。20年前だったらこれはオリジナル ソングとは呼ばれず、カバーバージョンとか、カバーの歌詞を替えたものと言 われた筈。Beach Boysの「Surfin' USA」がChuck Berryのカバーであるのと同 じ。だが90年代だとこれは立派なオリジナルソングとして通用する。世の中が 変わったということ。」 「Policeの「見つめていたい」はBobby Veeのヒット曲の「More Than I Can Say」のイメージ、タイトルはGene Pitney「Every Breath I Take」、 Carole Kingの名作ですが、これから明らかにイマジネーションを受けている。 そうした歴史と伝統がずっと続いているんですけど、それが時代によっていろ んな価値観の違いを産んでくる。」 「90年代はこうしたサンプリングで行われる音楽が引きも切らずに登場する。 どこまでがオリジナルでどこまでがカバーか全然がわからないような、混沌と した状況が続いている。まさにポストモダン。日本でもそういう手法が沢山あ る。キー・オブ・ライフの「Motion & Emotion」はCharの有名な「Smoky」の ギターフレーズをサンプリングして1曲作った。」 「数年前に、とあるグループのA&Rの人が「クリスマス・イブ」のイントロを サンプリングして曲を作りたいので、許可をくれと私の所に来たことがある。 許可はもちろん何の問題もないけど、それにどんな意味があるのか、こんな大 ヒットをサンプリングして曲を作っても、批評性が強いものにならないと思う、 誰でも知っているフレーズをサンプリングして曲を作って、それが自分達のオ リジナリティとどう関係があるんだろうとか、またいろいろな事をオジサン的 に言ったら(笑)、止めましたね。」 「キー・オブ・ライフはCharの「Smoky」の中頃のギターのカッティングをサ ンプリングして、どうとでもとれるカッティングなのでそれにコードを勝手に 付けて1曲作ったもの。こうなるとオリジナリティはどこまであるのか。自分 でギター弾いてやりゃあいいじゃないかと思いますが(笑)。概して、こういう 音楽の作り方をする人達は、楽器が弾けない、譜面が読めないとか、アカデミ ズムと縁がないというか。ラッパーなんてまさにそういう人達ですが。」 「例えば電気グルーヴの「シャングリ・ラ」の大ヒットなんてSilvettiの 「Spring Rain」のサンプリングですが、これは作詞&作曲:電気グルーヴと 書かれてたので非常に問題になった。それは八神純子さんの「パープル・タウ ン」と全く同じパターン。要するに著作権というお金儲けのもの。倫理とか道 義とかいうけど、それ以上に金儲け。パクリだとか論う心理も、倫理とかあり ますが、ヒットに対するねたみとか、そういうのが無いといえば嘘になる。ま だまだ言いたいことは沢山沢山ありますがこの辺で。3週間でも4週間でも出 来ちゃいますが(笑)。単なる糾弾大会には終らなかったという自信はあります。 2週間、なかなか面白かったんじゃないかと思います。自分でもこれをやって 考えさせられることがありました。」 「いろいろ御葉書もいただきましたが、御紹介できなかったのが残念。お便り の中に、最近モーニング娘。関係のアレンジをやっている人が雑誌で「日本で やっている音楽の90%は洋楽のパクリ」という発言しているのを読んで激怒さ れたというのがありました。アレンジャーがこういうことを言っちゃいけませ んね。初めからこういう発言をしたら、オリジナリティは本当にどこにあるの かという感じがするけど、それとて私達オジサンの世代の発言なのかも知れま せん。これからどうなっていくんでしょうね(笑)。音楽を作るというのは、無 から有を作るのは、どこまでが無でどこまでが有なのかわからなくなります (笑)。」 「最後はほのぼの終りたいので。ロック、ジャズ、シャンソン、なんでも一定 の音楽の型というのがあって、コード進行とかメロディーが同じであることは、 盗作とかとは基本的に全く関係がないんです。それは先週の演歌のパターンと 全く同じ。映画「五つの銅貨」の中に、3つの違う曲をせーので同時に歌うシー ンがある。全部コード進行が同じなので歌えてしまう。これがDixieland Jazzの定型で、その上に違う曲、Louis Armstrongが歌う「Goodnight, Sleep Tight」、Danny Kayeが歌う「Lullaby In Ragtime」、そしてDorothyという子 役の女の子が歌う主題歌「The Five Pennies」、3つ一緒に歌われる。」 今後の予定ですが ・4/9は「棚からひとつかみ」