Billy Field

You'll Call It Love

1981 " Bad Habits " WEA P-11078J / LP





 中学3年の時(1983年)、キリンのウイスキー「NEWS」のCMで流れていたオールド・ジャズ風味の曲が気になってレコードを必死になって探したことがありました。そのインパクトあるシガレット・ヴォイスの持ち主をどうしても探し出したいとの欲求に駆られ(画面にアーティスト表記が無かったのです。確か)、駅前の「友&愛」でダミ声を発しそうな顔を持つアーティスト(例えばWillie NelsonやChris Rea)を片っ端から借りてきたりしました。結局その時は分からず仕舞いでしたが、かなり経った後、新宿のえとせとらレコードの店内でいきなり流れてきた時は思わず声を発するほどの驚きと、懐かしさを伴う喜びに打ち震えました。


 そのダミ声の持ち主がこのBilly Fieldで、曲は「You'll Call It Love」でした。"えとせとら"で買った日本盤1stアルバムの長門芳郎氏の解説によれば、オーストラリア出身の当時28歳のBillyは、70年代初頭にKing Foxなるバンドでトップ10ヒットを放ったことのある経歴の持ち主。一時期牛の飼育業をしていたらしいですが、本作『Bad Habits』でソロ・デビューを果たし、本国ではリリース初日に2千枚を売る大ヒットになったのだそう。とにかく不思議なのが、80年代前半というテクノ/ニュー・ウェイヴな時代になぜこんなオールド・タイミーなサウンドなの?ということ。今の耳で聴けばロック・センスを伴ったネオ・ジャズ・ヴォーカル(?)なんて捉え方だってできるけど、当時の音楽状況の中ではこのノスタルジーさは過激でさえありました。若い頃から時代に逆行するクセの
ある自分が反応したのも頷けるわけでして、Tom WaitsやHurricane Smith、最近ではSteve Tyrellなどの"ダミ声系"を追いかけるきっかけになったのも本盤を聴いてから。それと特筆すべきはこの人、メロディ・メイカーとしても相当な実力の持ち主で、特にFrank Sinatraが歌っても良しと思える「You'll Call It Love」「You Weren't In Love With Me」「If I Was A Miillionaire」といったバラードと、「恋とタバコとスウィングと」という粋な邦題がついた「Bad Habits」や「Since I Found Out」のスウィンギーな4ビート・ナンバーは見事な出来映え。捨て曲は一切無い、最高にハッピーなアルバムだと思います。
 ちなみに本作、最近になってエアー・メイル・レコーディングスから82年発表の2nd『Try Biology』をカップリングしたCDとして再発されました。解説はHi-Fi Record Storeの店主、大江田 信氏。Bob DoroughやBlossom DearieといったHi-Fi周辺のアーティストが気になる若いクラブ世代にも、Billy Fieldお薦めっすよ。

(高瀬康一)


Billy Field / Bad Habits + Try Biology
AIRAC-1067




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