Perry Como

Papa Loves Mambo

1954-2004 "the essential" BVCM-31118/CD





 最近放映されているnikeのCMが殊の外面白い。またもやサッカーネタで恐縮であるが、取り上げたい。
 舞台はポルトガル対ブラジル、キックオフ直前のスタジアム廊下。入場を待つポルトガルのフィーゴがブラジルのロナウドを「Ole!」と挑発、いつの間にか両チーム、一つのボールを争って試合そっちのけの大騒動が繰り広げられ… これがストーリーである。単純明快であり、しかもちょっと気の利いたオチまである。しかしこのCMの面白さはそこだけではない。ずばりキャスティングと曲の使い方がすばらしい。


 最近adidas、nikeがこぞってサッカーのスーパースターを共演させたCMを作っているが、今までこれといって面白いと思ったものがなかった(高校のときに見た「キャノンボール」とかいう映画を思い出した)。しかし今回は違う。キャスティングを整理してみよう。ロナウドが主役(善玉)でフィーゴが悪玉。ロベカルは善玉補(本来女性がヒロインとして演じるべきであろう)、廊下の通行人はフランスのかつての大スター、エリック・カントナで(特別出演)、飛び出したボールをスタジアムの外から蹴り戻してくれたのはイタリアのトッティ(友情出演)となる。筆者が感心したのは、その戻ってきたボールをデニウソンが胸トラップ、これを疾風怒濤のようにロナウジーニョがかっさらってドリブルしていくシーンである。まさに「必死そのもの」なのであるが、それには理由がある。すなわち彼こそ独り善がりのドリブルも喝采に変えてしまう、選ばれたアイドルなのである。しかしそのロナウジーニョにいい所を持ってかれる役柄がデニウソン。しかし彼はブラジル人が愛するドリブルアイドルそのもので、選ばれた人の先代なのですね。デニウソンが「ニヤリ」とするシーンは、アスリートにも伝統継承があることを的確に表現していて、ラストのロナウジーニョの姿を見ると、それが栄えある道化であったことがわかる。
 さて、ようやく本論にたどり着いた。このCMで使われている「Papa Loves Mambo」はPerry Como歌唱である。Comoは1912年生まれで、Frank Sinatraの3 才年上。活躍時期は1943年ごろからで、本作を発表した1950年代にはヒットを量産、そして70年代に入ってもヒットを生み出しており、ルックス、歌声とも善良な米国人そのもののソフトなバリトンが特徴であったのである。ところが「マンボ」になってしまった。ここでのマンボについてもおさらいしておこう。マンボというと「う〜っ」のPerez Pradoが大変有名であるが、マンボがプエルトリコで発明されたのが1940年代の中頃、そしてPradoが当たりを取るのが 49年、そしてこの曲が1954年の大ヒットとなるのである。このころのマンボブームはすさまじく、55年にはチャートのTOP20のうち3分の1近くがマンボであった月もあというから大変である(洋楽E-Zine 【meantime】)。なお日本では1951年に美空ひばりが「お祭りマンボ」を出していたというからすごい。ということで、掲載のベスト盤においても甘いバラードに混じって、何の脈略もなく「マンボ」が出てくるのである。脈絡に関してはサッカーも同じ。マンボとサッカーという取り合わせは無かったのではないか。しかし、ファンファーレの如きイントロ、流れるメロディー、そして例の掛け声。良いではないか。掛け声にあわせて道化役ロナウジーニョにタックルを浴びせた審判は、いったい誰なんだろう?こんな音楽バッチリのCMなら何度でも見たいのであり、Perry Comoに再会できてうれしいのである。

(たかはしかつみ)





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