Neil Sedaka

Laughter In The Rain

1974 " Sedaka's Back " The Rocket Record/MCA MCA-463/LP





 Neil Sedaka は「Oh Carol」や「Calendar Girl」をはじめとする多くの大ヒット曲を世に送り出したアメリカを代表するシンガーであり大ベストセラー作曲家として日本でも広く知られています。しかし、爆発的なヒットを放った人ほど一面的な評価にとどまってしまうのもまた宿命でしょうか。幾多のヒットを放ったポップスターとしての一面と、和製ポップスにカヴァーが多く使われたということもあって、とりわけ日本ではいわゆるオールディーズの代表選手として捕らえられています。「黄金のオールディーズ・スーパーヒット」などという怪しげなCDに収められてディスカウントストアの店頭に並んでいたりもして、それはそれで偉大な歌手として広く世間に認知されている証ではあるのですがその功績と評価のありようにはどうもギャップがあるようです。日本では彼の多くの作品が非常に安易な「オールディーズ」という範疇に一括りにされてしまってナツメロ的な扱いを受けることで、そのキャリアの表層的なところでしか評価がなされていないように思うのは私だけでしょうか。


 似たようなことは多かれ少なかれアメリカにもあったようで、Carpenters が空前のヒットを記録していた74年ごろ Neil Sedaka とコンサート・ツアーをしたことがあるのですが、当時、今をときめく Carpenters の前ではまるで前座のような扱いに、Neil Sedaka が怒ったというのを以前 Karen Carpenter の伝記本の中で読んだことがあります。シンガー・ソングライター全盛の70年代においては、彼は「なつかしの60年代のポップスター」としての評価でしかなかったのではないかと思われます。
 しかし、彼こそはすでに60年代から歌手として成功を収めていただけでなく、Howard Greenfield とともに多くの良質なポップスを量産してきた正統派のブリル・ビルディング系作曲家。Carole King が夢見たシンガーとしての成功と作曲家としての成功を早くから実現した人であり、まさにシンガー・ソングライターの走りのような人だったのです。そんな彼が本格的なシンガー・ソングライター時代の訪れとともに、過去の遺物のようにシーンから遠ざかっていたのは何とも皮肉としか言いようがありません。
 しかしながらいつまでも放って置かれるはずもなく70年代に入り、なぜかイギリスでカムバックを果たします。イギリスのロックシーンはこういうところが面白いですね。ある意味で最もアメリカ的なものによく反応するんですね。Elton John の作った Rocket Records というレーベルからアルバムを出します。10CC の Graham Gouldman もプロデュースで参加して『Sedaka's Back』は生まれます。Graham Gouldman は 「A Groovy Kind of Love」のヒットで知られる The Mindbenders に在籍していたこともありイノセントなアメリカン・ポップスに対する理解があったのかもしれません。
 この曲は、Neil Sedaka のカムバック・ヒットとなり、おそらく本人にとっても忘れられないターニングポイントの曲になったのではないかと思われます。
 雨の時期がくると時々ラジオから耳にすることもあるこの曲は、Neil Sedaka らしい優しいフレーズが印象的なバラードです。彼にとってあまたのヒットよりも本当に評価してもらいたかったのはシンガー・ソングライター然とした、こういう曲を歌っている姿だったのかもしれません。

 これから日本は梅雨の季節を迎えますが、暗く重い雲が立ち込めていてもこの曲を聴くと雨の日はのんびりと優しい気持ちで過ごしてみようと前向きな気持ちになっていきます。

(脇元和征)





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