Queen

Fat Bottomed Girls

1978-2004 "Jazz" TOCP-67347/CD





Queenの「紙ジャケ」が大量に出ていて困っている。

 「紙ジャケ」というのは、LPスタイルの紙製ジャケットを再現した(再発の)CDのことであるが、これが国内各社から発売されている。どうやら各社あわせると、ぽろぽろと間断なく出ているようである。各社ともそこそこ商売になるらしい。たまに「5000枚限定」などというコピーを見ることがあるが、実際には「これが5000枚も売れるのだろうか?」と思うようなものもある(制作費のかかる商品であるから、そこそこの枚数が出ないと困るだろうと思う)。これが、時にとても欲しくなってしまう。

 私も人並みに常に欲しいCDはいっぱいあるのだが、例えば100枚欲しいCDがあるすると、100枚の間に特に大きな順序を付けられないことが多い。すると、紙ジャケのキュートな魅力と、限定という悪魔の2文字に負けて、それがレジに選ばれることになってしまう。それで紙ジャケはいままでも色々購入してしまった。いままで何を買って、どれが気に入っているかを書き出すとそれだけで終わってしまうので書かない(山下達郎と竹内まりやのRCA紙ジャケも何枚か買いました)。しかし買った紙ジャケを見ると、アナログを持っていたり、人から借りるなどして何度も聴いたものが多い。つまり紙ジャケを買うと、その分新しい音源を聴く機会を失っている可能性がある。このような買い方/売り方が健全なのか?と思わなくもないが、まあそのおかげで過去のアーチストでもこうして盛り上がれるのでよしとすることにする。


 さてQueenの紙ジャケである。たしか4、5年前に一度リリースされた記憶がある。そのときは食指が動かなかったのだが、今回は動かされてしまった。というのも、ジャケットの作りが圧倒的によい。今までの東芝の紙ジャケは厚紙に印刷紙を貼り付けたような作りだったが(「A式」と呼ぶらしい!実際日本盤と米国盤のLPジャケットもA式が多かった)、今回のものは英国盤にかなり忠実になっているそうで、ペラ紙、ペラにコーティング、エンボス加工などそれぞれに工夫がされている(ちなみにペラは「E式」といふらしい)。今回のQueenは、他にインナースリーブ等付属品、レーベル等もうまく再現されていて、大変満足のいく作りである。ここまで行くと、一種の工芸品としての価値があるのではないか。

 「Fat Bottomed Girls」はQueen7枚目のアルバム『Jazz』に収録。「We are the Champions」で世界的大ヒットを飛ばした翌年の78年に発表されている。当時のQueenは2作単位で激しく音楽性が変化していて、この曲は少しずつ芸風が英国大衆国民バンド化する中で、初期の「華麗」「大仰」「ハードもどき」といった要素がうまく復活した佳作である。Freddieのはじけたヴォーカル、ストローク中心ながらも独特の音色がよく現れたBrianのギター、強く何箇所かで明らかに曲を立ち上がらせるRogerのドラムス、いつ弾いているのかよくわからないJohnのベース(本当はそんなことはないのだが、彼の当時の印象は「薄い」のひとことであった。「手をとりあって」の日本盤シングルの写真の通り)、そしてBrianを中心にした美しいアカペラコーラス。どれをとっても最高のQueenである。なおQueenは、80年台以降の音楽性はともかくとしても、70年代も色々物議をかもしたバンドである。それはつまるところ、QueenにはBluesがあるのか?とか、ハードロックではないのではないか?という本質論があったと記憶するが、むしろこの曲を聴くとBrian Mayのバックグラウンドにはフォーク/カントリーの血があって、Freddieのポピュラージャズソングの背景などと併せた上に、この演奏力とケレン味を理解すると、素直に楽しむ
しかなくなるはずであると思うのである。
 このアルバムには「ピンクのポスター」が付いていて、当時中学生だった私たちにはちょっとしたものであった。ヌードモデルが一体何人いるのか数えたこともあったが、よくわからなかった(65人だそうである)。このポスターをつかったイタズラというのもあったし、この曲をB面に据えた「Bicycle Race」の日本盤シングルのジャケット(同コンセプト、但し1名様だけの写真)を「いやらしい」とかいって、破り捨てたもったいない奴クラスにもいたような記憶がある。ミニチュアながら「ピンクのポスター」に再会してこういう話を書くと、遠い昔の思い出になってしまうようであるが、いまだに飽きの来ない元気のいい曲である。

(追記)
 2004年頭のQueenのちょっとしたブームというのは、数曲をキムタク主演のドラマに効果的に使ったことによるが、キムタクがいなかったら、この丹念な紙ジャケもなかったような気がしてしまうので微妙である。キムタクはアイスホッケー選手を演じているが、スケーティングを含むプレー振りが見事である。それに比べ「エースを狙え」のテニスの所作はひどすぎて、あれでは原作がよくても感動できない。

(たかはしかつみ)





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