Nick Lowe

My Heart Hurts

1982 " Nick The Knife " F-Beat XXLP14 / LP





「いいかげんにしろよ、とイヤ味の一つも言いたくなる、またまた Nick Lowe 一人公演である…」

 これは92年の Nick の来日公演のパンフレットに載った、大鷹俊一氏の解説の書き出し部分です。あれからちょうど10年(その間にトリオとしての来日はあったけど)、先日またまた単独来日(笑)したNick Lowe @渋谷クアトロに行ってきました。
 94年に発表された『The Impossible Bird』あたりから表面化してきた、"枯れ"と"熟成"が交差した激シブな音楽性には、確かにリズム隊もエレキ・ギターもいらないかもしれません。それでも元祖パワー・ポッパーとして高純度な(そして毒の効いた)ポップスを次から次と作っていた時代のレコードを青春時代に聴き捲くったファンとしては、一回くらいフルバンドでこの人の音楽を体験してみたいと、祈るような気持ちで待ち続けていたのに今回もまた一人公演。上記の大鷹氏の言葉も頷けるというものです。


 だがしかし!!やっぱり今回も打ちのめされてしまいました。バンド・サウンドだろうとアコギ一本の弾き語りだろうと、そんなことはどうでもよくなるくらい豊潤なメロディと、長いキャリアの果てに行きついたレイド・バックしたムード、老いてますます伊達男になっていくニヒルな容姿等、もう一生ついていきますって感じで惚れ直した次第であります。
 若いうちに出会って大きな影響を受けたという点では、自分にとって The Beatles と The Beach Boys に匹敵するほどの存在である Nick Lowe。高校2年の時にコパトーンの CM で「I Knew The Bride」を聴いて一聴ボレした以来だから、かれこれ20年近くファンを続けております。
 Paul McCartney ほど直球じゃないけど Elvis Costello ほど小難しくない、Dave Edmunds よりポップで Jeff Lynne より毒気がある、ホントにこの人くらい奇跡的なバランスでセンスのいい人は、英米ロック史を見渡しても中々見当たらないと思うのです。
 そんな Nick の長い活動の中で個人的に好きな時代はというと、パンク・シーンの兄貴的存在だった Stiff 時代と、バックバンドである Cowboy Outfit との活動を経てアーシーな側面を強めていくまでのちょうど間の時期、すなわち Lader から F-Beat(レーベル)の初期あたりということになります。分かりやすく言うと、もともとポップな Nick が一番ポップだった時期です。アルバムでは『Labor Of Lust』から『The Abominable Showman』までの3枚。で紹介するのは真ん中をとって『Nick The Knife』。
 このソロ3作目は、何たって曲が粒揃いで Rockpile の名曲のダブ風カヴァー「Heart」や、ロマンティックなレイン・ソング「Raining Raining」、当時奥さんだった Carlene Carter に書いた「Too Many Teardorops」、アコギのイントロがグルーヴィーな「Let Me Kiss Ya」など、ポップ職人の技炸裂しまくり。
 1曲というなら、マージー・ビート直系の甘酸っぱさと、自身が弾く Paul McCartney ばりの"歌う"ベース・ラインが最高にクールな「My Heart Hurts」を選びます。告白するとこの曲、全ての Nick 作品の中で一番好きなんです。(写真のジャケットは米Columbia盤)

(高瀬康一)





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