Carpenters

Mr.Guder〜I Kept On Loving You

1970 " Close To You " A&M SP4271 / LP





 「Yesterday Once More」のはじめのフレーズ「When I Was Young, I Listen To The Radio〜」を耳にすると、洋楽ポップスを聴きはじめた頃、夢中になってラジオを聞きながら、Billboard Hot 100のチャートやFENから流れてくる曲をメモしながら、そのシングル盤の発売日を心待ちにした中学、高校時代を思い出します。その当時、すなわち60年代後半から70年代にかけてアメリカのポップス界はサイケデリック、ニュー・ロック、フォーク・ロックなどが席捲していましたが、そんな時に出会った兄妹デュオの歌、ハーモニーは、私にはとても新鮮で、すぐ彼らのとりこになったのです。
 私と Carpenters との出会い――前述したことに加えて、当時英語を好きになりかけていた私には、「Carpenter」というアメリカ人の名前としてはあまり聴きなじみのない言葉(そう、辞書で「大工さん」と知る些細なきっかけ)を知り、英語の歌に興味を覚えた時期と重なるのです。余談ですが高校生の時、ESSに入っていました。


 『Ticket To Ride』に続く1970年に発表された2枚目のアルバム『Close To You』はまさにブレイクした「Close To You」、「We've Only Just Begun」を含む、彼らの代表作といっていいのではないでしょうか(当時、作曲者の Burt Bacharach も Paul Williams も後に Dunhill ほかのリズム・セクションでその名前を知る Hal Blaine、Joe Osborn も知る由もないころのことです)。
 もちろんシングル・ヒットした曲も素晴らしいけど、Richard のオリジナル「Mr.Guder」と Paul Williams と Roger Nichols のコンビによる「I Kept On Loving You」(メドレーのようになっています)は、好きです。このアルバム自体が、まさにラジオから数々の心地よいポップスの定型が流れてくる玉手箱のようなアルバムともいえるのではないでしょうか。
 「Mr.Guder」は、フルートが奏でるメロディから始まる組曲風な流れをもった作品です。Karen のメリハリのきいたヴォーカル、そして Richard とのスキャットのコーラスがとても印象的です。その流れを壊さずに、Richard のヴォーカルにバトンタッチされて「I Kept On Loving You」が始まります。ミディアム・テンポの軽快なこの作品は大ヒット曲の影に隠れた短い小品ながら、好きな曲にあげるファンも多いと思います。
 Carpenters のサウンドは、どうしても Karen のヴォーカルに重きを置きがちですが、Richard の音楽的才能、アレンジャーとしての才能はこうした影に隠れた曲を聴くと、余計感じられるのです。このアルバムでは、Beatles の「Help」などにもそれを感じます。レコードでデビューする前、Richard Carpenter Trio としてジャズを演奏していたときに培った音楽的な素地から得られたものも多いのではないでしょうか。
 今聴いても少しも古びない彼らのサウンドは、世代と世代をつなぐポップスの宝物として21世紀を生きるミュージシャンやリスナーの心の中に受け継がれているような気がします。そして彼らのサウンドは、これから生まれるポップス・ファンにもバトンタッチされ続けると思います。

(伊東潔)





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