Carpenters

Hurting Each Other

1972 " A Song For You " A&M SP3511 / LP





 Carpenters の曲がラジオやテレビから流れてきた瞬間、いつも時間が一瞬止まるような錯覚を覚えるのは僕だけでしょうか。どんなに忙しくてもハッと息を止め、窓の外を見る心の余裕ができるという感じ。それは Karen の声が持つ儚い純粋さによって、自分の心が浄化されていくのに気付く瞬間、とでも言いましょうか。
 そのような Carpenters の曲の魅力を知っている映像作家は日本にも結構いて、例えば岩井俊二の『ゴーストスープ』という初期の作品のエンディングでの「(They Long To Be)Close To You」の使い方や、野島伸司 脚本の『未成年』での「I Need To Be In Love」も、そしてつい最近の「The Rainbow Connection」も、そういう浄化効果を狙ったものだと思います。
 "少年のような無垢な心"をテーマにした作品が多い岩井俊二や野島伸司のような作家に好まれるという事実が、Carpenters の存在を特別なものにしていると思うのです。彼らの音楽を女子供の音楽と軽くみている人は相変わらず多いものの、「耳障りの良いポップス以上の特別な何か」を感じ取ってしまった人達も(自分以外に)沢山いるということに気付いたのは案外最近のことでした。


 さてそんな Carpenters のアルバム群から個人的に一枚を選ぶとすれば、72年発表の4th『A Song For You』でしょうか。もう全曲有名曲と言ってもいい位、とんでもなく"濃い"アルバムなのですが、更にその中から一曲を選ぶとなると僕の場合「Hurting Each Other」になります。
Ruby and The Romantics、Little Anthony & The Imperials、B.J.Thomas、Jeffrey Foskettなど(まりやさんも歌ったことがありましたよね)とにかくこの曲のカヴァーは駄作が無く、どのヴァージョンも素晴らしいのですが、やっぱり僕は最初に聴いた Carpenters のヴァージョンが一番好きなのです。(オリジナルはJimmy Clanton か、The Guess Who の前身バンドである Chad Allan & The Expressions のどちらか。共に65年)ゆったりとした出だしから段々とドラマティックに変化していく曲調と、Karen の切々と歌いかけるヴォーカルは何度聴いても胸が締めつけられてしまいます。
この曲を作ったのが Gary Geld & Peter Udell という作曲家コンビで、ポップスの深い森を探索している人は必ずブチ当たるといっていい、隠れた名曲生産コンビと言えます。
 このアルバムは他にも Carole King の「It's Going To Take Some Time」、泣きのギターソロが逸品なRichard 作「Goodbye To Love」、同じく Richard 作で日本盤のタイトルにもなった「Top Of The World」、Robin Ward や Shelby Flint の作品でお馴染みの Barry Devorzon & Perry Botkin Jr. の作品「Bless The Beasts And Children」、Randy Edelman の「Piano Picker」、そしてトドメの Leon Russell の「A Song for You」と Roger Nichols & Paul Williams の「I Won't Last A Day Without You」と、まるでベスト盤のような名曲オンパレード。そしてそれらを控えめながらも絶妙なリズムで支える Joe Osborn と Hal Blaine の好サポートも忘れてはなりません。

(高瀬康一)




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