The Prisonaires

Just Walking In The Rain

1953/2002 " The Legendary Story of SUN RECORDS " METRDCD 501 / CD





 昨年暮に SUN Records への素晴らしいトリビュートが発売されています。 Elvis Presley をはじめとする SUN のヒット曲が全編新録カバーで収録されたこのアルバムは、参加アーティストの豪華さもあって、この手の作品にしては破格の扱い。あちこちのレコード屋さんでもよくかかっていました。その中でも格段に耳を引き付けられたのが Eric Clapton による「Just Walking In The Rain」。Impressions をバックに従えた演奏は、薫り高いとでも形容しましょうか、Eric はしばしばとてつもなく良い演奏をするものだと今更ながら感心いたしました。今日の主人公はこの曲のオリジナル・アーティストの The Prisonaires と作者でリードヴォーカルの Johnny Bragg です。


 The Prisonaires はその名の通り、刑務所内で出会った5人の囚人たちが作ったコーラスグループです。この曲「雨に歩けば」は彼らが刑務所内で録音した 1953年の大ヒットで、カントリーの Johnny Ray が3年後にヒットさせたものも大変有名です。豊かな歌唱力と歌心に支えられたこの曲の裏に、どう解釈しても幸福とは表現できない人生があるとは全く想像できません。リードヴォーカルの Johnny Bragg は1926年に生まれますが、生まれながらの盲目。しかし奇跡的に7歳の時に視力を得ます。ラジオから流れるゴスペルやポピュラーソングが少年の支えとなっていたのですが、少年の幸福も長くはつづきません。彼は16歳の時強姦罪で逮捕され、逮捕後さらに5つの未解決な強姦事件の罪を着せられ懲役99年を言い渡されます(後に全て冤罪であることが明らかになる)。そんな境遇でも彼は歌うことをあきらめず、テネシー州立刑務所の囚人達を次々にメンバーとします。他のメンバーの名前と罪状は、Ed Thurman と William Stewart(殺人罪で共に懲役99年)、John Drue(窃盗3年だそう)、 Marcel Sanders(過失致死で1から5年)というもの。しかし音楽は奇跡を起こします。理解のある所長の就任をきっかけに、地元ラジオ局のDJに伝わります。最終的には、SUN Records の Sam Phillips の耳にとまることになり、レコードデビューと相成ります。時は1953年、Elvis デビューの1年前ですね。Bragg は度重なるメンバーの変更にもめげず(大事なメンバーでも出所ばかりは止められない)塀の中での音楽活動を続けます。彼自身も何度かの出所と怪しげな再投獄を繰り返させられながら、自由をつかむのは1977年まで待たされることになりました。
 上の写真は、つい先ほど英国の unionsquare からリリースされた、SUN のオリジナル音源によるコンピレーションで、「Walking In The Rain」のオリジナルを収録。大ヒット曲をちょっと外した味な選曲の2枚組60曲です。ちなみに unionsauare というのは STIFF が名前を変えてよみがえった会社だそう。右の写真は Eric によるカバーを含む名演がつまった2001年作の「Good Rockin' Tonight」。どちらも豊かな音楽がいっぱいです。

(たかはしかつみ)




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