Dion

Didn't You Change

1972-2001 " Suite For Late Summer " Warner BS 2642/LP,Ace CDCHD 792/CD





 60年代初頭に華々しくアメリカン・ポップスを彩ったシンガーやライターが、70年代に入りシンガー・ソングライターに転身し発表したアルバムはなぜこうも深くて誠実で、優しく心に染み渡るのでしょうか。Barry Mann の『Lay It All Out』はその筆頭格ですが、例えば73年の Phil Everly のソロ『Star Spangled Springrer』や、Bobby Darin の『Commitment』など、シブいけど個人的に忘れられない名作が結構あります。
 Carole King の『Tapestry』がきっかけになったとも言えるでしょうが、ティーンエイジ・ポップス黄金時代を築き、その後The Beatles の出現で一斉に低迷時代に突入、狂乱の60年代後半を横目で見ながら除々に自分の心の内を見つめていった元スター達は、ようやくありのままの自分の歌を自然に歌いだしたって感じがします。
 Dion & The Belmonts として、またソロとして50年代後半から60年代初頭にかけてヒットを連発したDion こと Dion DiMucci もそんなシンガー・ソングライター転向組の1人。 68年に大ヒットした「Abraham, Martin And John」で見事復活を果たし、70年代に入ってワーナーに移籍。良質なヴォーカル・アルバムを次々に発表していきます。


 この『Suite For Late Summer』はワーナーでの4作目。Dion といえばブロンクス、東海岸のイメージがありますが、このアルバムはL.A.のワーナー・スタジオで録音されています。プロデュースはバーバンク・サウンドの重要人物 Russ Titelman 。とくれば次にくる名前はこの人 Nick DeCaro 。彼はアコーディオン、オルガン、ピアノ、そしてストリングス・アレンジを担当しています。このアルバムを最初に聴いた時にまず思ったのは彼のストリングスの素晴らしさでした。その過激とも言える甘い弦アレンジと凛とした佇まいの Dion のヴォーカルの対称。特に「Sea Gull」や「It's All Fits Together」といった曲では、ヴォーカルの高揚と流麗なストリングスが絡んで何とも感動的です。でも一番好きなのは「Didn't You Change」という曲。重いリズムと分厚いサウンドで淡々と歌われるこの曲を聴いていたら、なぜか細野さんの『Hosono House』の中の名曲「僕は一寸」を思い出してしまいました。そういえば『Suite For Late Summer』と『Hosono House』はなんか同じ空気感を感じます。激しかった夏が終わり、初めて感じる澄んだ冷たい空気感。これは全く個人的な印象で客観的な意見ではないですけど、でもこういう特別な空気感を感じ取ると、僕にとってそれはただのレコードから宝物へと変わるのです。

(高瀬康一)




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