Bruce Roberts

I Don't Wanna Go

1977 " Bruce Roberts " Elektra 119/LP





 この曲、「サンデー・ソング・ブック」ではスィートソウル・グループ The Moments のバージョンで数回オンエアされているおなじみのナンバー。これは作曲者である Bruce Roberts の自作自演によるもの。The Moments のバージョンは Harry Ray の甘いファルセット・ボーカルによりとても色気ある作品に仕上がっていることに対して、この自演の Bruce Roberts のバージョンは、本人の知的で優しいキャラクターが反映して、より一層切ない気持ちが込み上げてきます。作詞は彼とチームを組んでいた Carole Bayer Sager によるもの。
 Bruce Roberts はニューヨーク生まれ。子どもの頃から音楽芸能の世界に入り、コマーシャルのナレーションや The Partridge Family のメンバーの歌声のアテレコなどをしていたようです。その後、ジュリアード音楽院やコロムビア大学で本格的に音楽を学んだ彼は、ニューヨークで作詞家として活動していた女性、Carole Bayer Sager と組んで曲を作り始め、 The Moments や The Pointer Sisters などが彼の作品を取り上げたことで、ソングライターとして徐々に名が知られるようになりました。 1977年に Carole Bayer Sager が西海岸の Elektra で"シンガー"としてデビューしたことをきっかけに、Bruce Roberts 自身も同様に西海岸に拠点を移し、同じ Elektra からこのアルバム『Bruce Roberts』でソロ・デビューを果たしました。


 Atlantic Records で名エンジニアとして名を馳せた Tom Dowd のプロデュースの下、Steve Cropper を初め、David Foster、Ray Parker.Jr、Mike & Jeff Porcaro、David Campbell(Strings Arrange) といった西海岸の優秀なスタジオ・ミュージシャンを配置し、彼の素晴らしい楽曲と心温まるボーカルを支えました。1980年にはセカンド・アルバム『Cool Fool』をリリース。
その後、作曲活動を精力的に行い、Carole Bayer Sager とのコンビを解消後も Allee Willis、Andy Goldmark といったライター達とコラボレーションを続け、Bette Midler、Donna Summer、Dolly Parton、Whitney Houston といった人達に曲を提供しました。
 ニューヨークから西海岸に拠点を移したことは彼のその後の活動に大きな変化を与えたようです。1979年に Barbra Streisand 主演映画『The Main Event』の主題歌を手がけたことをきっかけに、ハリウッド映画の世界に足を踏み入れ、いくつかの映画の主題曲を担当。その後、彼はなんと"俳優業"にも進出!。最近では映画『バットマン・シリーズ』などにも出演しているようです。
 1995年に突如として、サード・アルバム『Intimacy』をリリース。でもそのジャケットは彼のトレードマークであった"メガネ姿"ではありませんでした。
 Bruce Roberts が作り出す音楽は、何処となくニューヨークの香り。映画に例えるなら、James L. Brooks や Nora Ephron...、ニューヨークを舞台に様々な人間模様を描き出すのが得意な映画作家、そんな彼らの映画と重なって聴こえてくるのです。

(富田英伸)





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