Anne Sofie Von Otter
meets Elvis Costello

You Still Believe In Me

2001 For the Stars, Deutsche Gramophon UCCH-1001/CD





 9月に Brian Wilson がやってきます。1999年以来の来日公演です。今年の夏はこれだけ暑いと、なんか勇ましい音楽も聴く気がしませんなあ。ということで、『Pet Sounds』からのこの1曲。この曲は何かが終わってしまう歌、失われていく歌です。『Pet Sounds』が旬なのはどの季節でしょうか。秋冬のような気もしますが、空調の効いた部屋から暑い外を眺めながら聴くと良いような気がします。夏の青空と哀しみ。
 この「You Still Believe In Me」のカバーは、Elvis Costello がスウェーデンのメゾ・ソプラノ歌手 Von Otter のために制作(および一部デュエット)した新作『For the Stars』に収められています。本作は数曲のオリジナルの他、古今の隠れた名曲が小編成のオーケストラとバンドをバックに演奏されている、クラシックのようなジャズのようなポップ・アルバムです。その中で2人は「You Still Believe In Me」を「Don't Talk」とともに『Pet Sounds』から取り上げています。Costello のアレンジはアコースティック・ギターとダブル・ベースを基調として、丹念なアンサンブルで原曲の哀しさとか密室感を再現していると思います。自転車のベルの喧騒感は、Costello のアクの強いコーラスが対応しています。


 Brian は99年夏、日本を含むソロ・ツアーを行い、2000年夏には"The Pet Sounds Symphony Tour"を敢行(残念、日本で見られず)。そして今夏は Paul Simon と全米をまわり、日本へはおそらく99年と同じメンバー編成で来日します。一方、Costello と Von Otter のカバーは、Brian の活発な活動に呼応する Costello からのメッセージとも取れます。Paul McCartney、Roger McGuinn ら、次々と自分に大きな影響を与えてくれた偉大なアーティストと共演して、彼らを逆に元気づけてきた Costello から、こんどは Brian へのお中元として聴きましょう。
 Costello と『Pet Sounds』というと、93年の Brodsky Quartet との来日ジョイント・コンサートを忘れることが出来ません。そのアンコールで Costello は弦楽四重奏をバックに「God Only Knows」をカバー。完璧な演奏でノック・アウトしてくれました。これは当時、Brian が「Love and Mercy」で復活したことへのメッセージであったかもしれません。Costello は『Pet Sounds』の楽曲を伝説から呼び出して、永遠のメロディーだよと再度教えてくれます。Brian は Jeffrey "二代目" Foskett や Darian Sahanaja 君といった、来日ステージをサポートすると思われる名手らや、Costello のようなフォロワーに恵まれて幸せです。まだまだ「Imagination」はこれからです。
 ところで「For the Stars」は日本盤を買ったのですが、曲目解説がなくて残念です。せっかくなので曲目の出典のみ紹介します。
 「Go Leave」はカナダのフォーク・シンガー Kate and McGarrigle 1976年の作。「Broke Bicycles / Junk」 は Tom Waits が Coppola の映画に書いた1曲(1985年)に Paul McCartney のソロ第1作からの小品の見事なコンビネーション。「Take It With Me」はもう一つの Tom Waits の作品(1999年)。「Like an Angel Passing Through My Room」は1981年の ABBA 最後のアルバムから。Beatles もあって「For No One」は1966年の『Revolver』から。一番のポップなバラード「April After All」はカナダのシンガー・ソングライター Ron Sexsmith の2枚目のアルバムから(1996年)。「The Other Woman」と日本盤ボーナス曲の「You Go To My Head」はジャズのスタンダード。これに、『Pet Sounds』からの2曲を加えた10曲がカバー曲。
 Costello の曲のカバーは4曲。「Baby Plays Around」(『Spike』1989年)、「I Want to Vanish 」(『All This Useless Beauty』1996年)、「This House Is Empty Now」(Burt Bacharach とのコラボレーション、1998年)、「Shamed into Love 」(Ruben Bladesに書いた曲、1988年)。残りが Costello ならびにスウェーデンのミュージシャンとの新曲となります。

(たかはしかつみ)





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