The Belmonts

Rock And Roll Lullaby

1972 " Cigars, Acappella, Candy " Buddah BDS-5123/LP





 昨年発売された Dion の3枚組アンソロジー・ボックス『King Of The New York Streets』の1曲目に収録されていた「I Wonder Why "Session Talk"」では、Dion と The Belmonts のスタジオでのやりとりを聴くことができます。ちょっとした会話の後にキー確認のピアノの音、そしてメンバーによるアカペラが"トゥルットゥルットゥルッ・・・"と始まります。これこそグッド・オールディーズを象徴する永遠の黄金律。僕はいつもその瞬間にポップスの魔法にかかってしまいます。
 今回紹介するアルバムはそれから約10年後、Dion と別れた The Belmonts が1972年に出したアカペラ・アルバムです。ジャケットを見るといかにも N.Y.の下町みたいな街角でマイクを立てて歌っているメンバー。裏ジャケには70年代のダサいスーツを着たお腹の出たイタロ男たち。だけどそんなオヤジ臭さもいとおしくなるくらい(笑)中身は素晴らしいのです。


 Dion & The Belmonts として1959年に発表されたシングルA面の「Where Or When」とそのB面の「That's My Desire」や、The Crystals の「Da Doo Ron Ron」、The Four Tops の「Loving You Is Sweeter Than Ever」、 Doo Wop クラッシックスの Robert And Johnny「We Belong Together」など、とにかく泣かせる選曲。当時ヒットしたばかりの George Harrison の「My Sweet Load」に、The Chiffons の「He's So Fine」のコーラスを織り込むなどの茶目っ気も見せています。でも何と言ってもため息が出るほど素晴らしいのは「Rock And Roll Lullaby」でしょう。特に出だしのコーラスには耳をすまさずにはいられない感動的な響きがあり、オリジナル(B.J. Thomas)で聴かれる Duane Eddy のギターのイントロにも匹敵すると思っています。ロックン・ロールの輝きと子守唄の温もり。 Barry Mann 屈指の名曲の本質を声だけで表現したもう1 つのオリジナルと言っても過言ではないと思います。アルバムの最後は Doo Wop が最も輝いていた50年代後期から60年代初期にかけてのヒット曲の "囃子言葉" をメドレー形式で盛り込んだ「Street Corner Symphony」で幕を閉じます。
 The Belmonts のアカペラには何か特別な魅力があるようです。ものすごい美声の集合でもないし、一糸乱れぬ超絶テクのハーモニーでもない、なんともユル〜イ庶民派アカペラとでも言いましょうか。スタジオでのレコーディングでもそんなストリートと同じ感覚で歌っていたのでしょう。でもだからこそ僕は何度も聴きたくなってしまうような気がします。人間の肉声だけでこんなにも感動できる喜びを感じたいのです。
 ちなみに僕のMDには達郎さんの『On The Street Corner 1』の次にこのアルバムを続けて収録しています。達郎さんと The Belmonts の「That's My Desire」が繋がって聴き比べができるからです(笑)。

(高瀬康一)





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