Steely Dan

Reelin' In The Years

1972 " Can't Buy A Thrill " MCA MCAD-31192/CD





 Steely Dan が何と20年ぶりに『Two Against Nature』なる、いかにも彼ららしいタイトルの新作をリリースしたとのこと。筆者はこの原稿を書いている時点では未聴ながら、きっと今回も彼ららしい美学に満ちたアルバムに違いないと思っているところ。
 93年に Donald Fagen が2枚目のソロ・アルバム『Kamakiriad』を出し、その後 Walter Becker も続いただけに、それぞれが相手のアルバムに参加していたとは言え、Steely Dan というユニットとしての活動はもうないんじゃないかと思っていただけに何とも嬉しいリユニオンが実現しました。と同時に、きっと何ヶ月も何年もスタジオをキープして相も変わらず偏執狂的かつ緻密な録音を続けていたに違いないと思うと、なんだか思わずニヤリとしてしまいます。
 彼らこそコアなファンがたくさんいるだろうし、新作でも出ない限り取り上げる機会もなかろうと、久しぶりに彼らのアルバムを引っぱり出して聴いております。


 このアルバムは彼らのデビュー・アルバム。このころからすでに現在へと続く彼らの屈折した緻密さと硬質で研ぎ澄まされた美しさの片鱗が伺えます。メンバーは Fagen、Becker が中心となって、Denny Dias (G)、Jeff "Skunk" Baxter (G)、Jim Hodder (Dr)、David Palmer (Vo) を迎えました。プロデューサーはこのときからすでに Gary Katz。エンジニアの Roger Nichols(あのロジャニコじゃないですよ。)も含め不動の布陣が確立していたわけです。
 しかしながらこの時点ではまだバンドの体をなしていたのでそれなりにバンドとしてのグルーヴを感じることができます。「Only A Fool Would Says That」のどことなくシュガー・ベイブな音とか「Do It Again」のダルな感じも初期の彼らならではの雰囲気かもしれません。東海岸出身の彼らが西海岸を中心にレコーディングしたということで、東的エスタブリッシュメントのシニカルな視点とウェストコースト・ロックのストレートなところが絶妙にブレンドされて得も言われぬ不思議なサウンド・スタイルを確立しています。
 この後彼らはどこまでもアイロニカルな歌詞を、一枚の緻密なタペストリーを編むがごとく紡ぎあげたようなサウンドの中に織り込んでいきます。その過程でメンバーは一人またひとりと減っていき、Fagen、Beckerにプロデューサーの Gary Katz を加えた鉄壁のトライアングルによって数多くの腕利きミュージシャンの手を借りながら、工房から出てきたようなサウンドを確立していきます。そして77年、ロック史上に燦然と輝く名盤『Aja』を世に問うことになるのです。
 そんな彼らの出発点ともなったこのファースト・アルバムで、時代の先を歩いていた彼らの足跡を辿ってみるのも面白いと思います。

(脇元和征)





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