Cold
Annie Lennox
1992 " Diva " Arista 18709/CD





 酸いも甘いもかみ分けたとでもいうのであろうか、この曲の聞きどころは、Annie Lennox のさめた視線にもとづいた歌唱力にある。

白黒つけてよ
私はあんたのために生きて来たのよ

 歌詞はこんな調子で始まる。うらみ言である。続いて昔の回想があって、終いには愛はどうしようもなくなったことがわかる。まるで演歌である。しかし Lennox の歌唱はそうではない。心情吐露もなければ、お涙でもない。そこがこの曲のいい所であり、彼女の恐いところでもある。もともと歌のすごく上手い人であるが、このスローバラードではさらにうまさが発揮されている。捨てられた女だとしても、彼女は追いつめられていない。終わった愛を突き付けられてびびるのは男の方である。男への思いを歌えば、それは純粋な心のようでもあり、同時に行き過ぎた自虐のようでもある。どちらにしても聞き手はそこにエクスタシーを感じる。繰り返し使われる Cold という単語は、凍りついた愛の象徴である。Lennox の歌唱は、Scotland の荒野の上で、夜空を照らす凍った月の光である。

 Annie Lennox は、80年代にヒットを連発した、英国男女のデュオ Eurythmics のメンバーである。こんな恐い女性は決してタイプではないが、大変に気になる存在である。


(たかはしかつみ)


Xmas in February
Lou Reed
1989 " New York " Sire 2-25829/CD
 もう一つの冬の夜景は、ニューヨークのストリートである。ストリートには様々な人の生活がある。そしてそれはどれもロクなもんじゃない。しかも Lou Reed が題材にする人々の生活は尋常ではない。暴力、ドラッグ、そして人の死が溢れている。そんなテーマを Lou Reed は穏やかに歌う。穏やかな旋律にやさしいエレキギターのストローク、そして余分な感情表現を廃した語りと言っていいヴォーカル。それはどんなにニューヨークの冬の街並みがきれいでも、その裏ではマトモなことなんてありゃしないんだという静かな告発。

 この曲はベトナム戦争の記憶である。主人公は、仕事を失い、ベトナムで片腕を失い、妻子には逃げられる。全く救いがない。しかも Lou Reed のヴォーカルには救ってあげようという意志もない。ただただ事実を見よ、と。聞き手はこの突き放した姿勢、そして簡素極まりない歌唱と演奏にただただ引き付けられる。

 主人公はどんなにもがいても、救いは訪れない。2月にクリスマスは来ない。

 冬から冷たくて厳しい季節であることを忘れさることは出来ない。



(たかはしかつみ)
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