達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン

2001/09/16 Sunday Song Book「棚からひとつかみ(ヒーリングミュージック系)」



山下達郎/The War Song 1986『Pocket Music』
Julia Fordham/Happy Ever After 1988『Julia Fordham』*1
Timmy Thomas/Why Can't We Live Together 1972 Single *2
Ladysmith Black Mambazo/Mus' Ukumbulal' Umuntu 1994『Liph' Iqiniso (Where Is
The Truth)』
Marvin Gaye/What's Going On 1971『What's Going On』
Carole King & James Taylor/Will You Love Me Tomorrow 〜 Some Kind Of
Wonderful 〜 Up On The Roof (LIVE) 1996『The Carnegie Hall Concert -
June 18, 1971』*4
山下達郎/Love Can Go The Distance 2000『On The Street Corner 3』

*1 英国の女性SSW。日本で90年代のTVドラマ主題歌に使われていた。
反アパルトヘイトソング。
*2 MiamiのSSW/Organist。全米3位。R&Bチャート1位。
アルバムバージョン(『Why Can't We Live Together』(1972))より1分半短
い。
*3 南アのZulu族が結成した世界的に有名なアカペラグループ。
曲名は「争いをやめろ」という意味。
*4 1971年6月18日Carnegie Hallでのライブ。James Taylorがゲストで共演。
3曲のメドレー。

内容

・オープニングコメント

「皆様よくご存知の様に、9月11日のアメリカの朝でニューヨークとペンタゴ
ンにテロが行われまして。身の毛もよだつと言いましょうか、大変な事件でご
ざいます。これに対する報復が、録音なのでひょっとしたら日曜にはすでに始
まっているかも知れませんが、この録音を録っている段階では報復をアメリカ
が計画して準備しているという報道が現時点ではなされております。そういう
戦争の予感が段々ひたひたと押し寄せて参ります。こういう場合に音楽という
のは全く役に立ちません。そういうものの解決の手段とはならない訳でありま
して。そもそも文化というものは平和な世の中にあって初めて機能するもので
、こういう状態ですと音楽の、自分は音楽を作っている人間ですからそういう
人間にとっての無力感という物を凄く感じる訳ですけど。私はいつもインター
ネットでNYのWBLSというR&Bのステーションを聞いているんですけども、この
3日ほど全く応答がなくなってしまいました。他の、ラジオで放送を続けてい
るNYの局も音楽は一切無しで情報を延々とやっております。幸か不幸か、事件
の後に録音を今録っております。先日の阪神大震災の時は番組が録音済みだっ
たので凄く間抜けな番組になってしまいました。こういう場合にあまりヘラヘ
ラした番組をとても作る気になれません。言葉でもそんなに洒落たことも申し
上げられませんが、こうした戦争の予感のするところで、怯えている心を少し
でも鎮める、そういう作業に関しては音楽は少しだけ役に立つかもしれない。
そういう訳で先週に引き続いて「棚からひとつかみ」ですが、ああいう事件の
直後なので割と厳粛に、そうしたプログラムで行ってみたいと思います。世の
中が騒然としております、世界中が怯えております。そういう心を少しだけ鎮
められるかなという、今日はそういう「棚つか」であります。」

・「Happy Ever After」

「意外とチャートで上がってなかった。英国でのみだし、米国では全然ヒット
していない。日本では90年代にTVドラマ主題歌になってちょっと知られている
。でも元々は反アパルトヘイトソングで、全然TVドラマに使うような質の音楽
じゃなくて、随分勘違いしたことをやっているなとその時思いました。内容は
いつになったらHappy Ever Afterになれるかしらというもの。いわゆるメッ
セージソングやプロテストソングは内容は凄く悲しい過激なことを歌っている
のですけど、得てしてこういう具合に作られたものは、独特の静けさを持って
おります。」

・「Why Can't We Live Together」

「70年代初め、アメリカでベトナム戦争が泥沼化した時代に、そうした静かな
諦観を歌った歌、静かなメッセージが込められた歌が沢山生まれました。これ
もそういう1曲。「どうして僕達は一緒に生きられないのか」というシンプル
なメッセージの歌です。さっきのJuliaの曲は明らかにこの曲のリズムのイメ
ージから同じ様なメッセージソングを作ろうという意図で作られたのだと思う
。」

・Ladysmith Black Mambazo

「80年代中期にPaul Simonが『Graceland』(1986)で起用して世界的に有名
になった南アZulu族のアカペラグループ。歴史は大変古くて、非常に政治的な
メッセージに満ちた歌、反アパルトヘイト、反人種差別、そうした歌をずっと
歌い続けてきた人達です。1994年にはそのものずばり「争いをやめろ」という
歌を歌っています。「人を殺すな。君の兄弟を殺すな。誰の生命も奪ってはな
らない。警告だ。よく聞いておけ。人を殺したりすれば君はきっと後悔する。
それが黒人だろうと白人だろうと、どんな肌の色の相手だろうと。君は自分の
兄弟を殺したことになるのだ。みんな人類という一つの大きな家族だから。」


・コメント

「一旦有事になってしまいますと、歌でこうやって何を語ったとこで、所詮絵
空事としかならないという、歌の悲しみというのがあるんですけども。それで
もまぁ、歌い続けなくてはならないんです。それが歌というものに課せられた
使命だからというか、役割だからです。あまり力がなくても無力でも、それは
歌にして歌っていかなければならない。」

「NATO(北大西洋条約機構)は集団的自衛権の行使を宣言しました。集団的自
衛権とは、軍事同盟でどこか一つの国が攻撃されたときには、同盟全体に対す
る宣戦布告と見なして、全ての国で事に当たるということ。元々国家間の戦争
を想定して作られた発想ですが、それが国家対テロリズムや国家対カルトとい
うことで集団的自衛権とは。NATOを結成して50年になると思いますが、初め
てそういうことが起こるという。従って昔の帝国主義戦争とか、そういう物と
時代が変わってきております。これからは民族主義とかテロリズムとかカルト
、そういうものと国家との対決構造ができるという、そういう具合に21世紀
に変わっていくのかわかりませんが、非常に恐ろしいことでございます。これ
は私のほんの個人的意見ですけど、日本もそろそろそういう意味でのオールド
タイムな集団的自衛権というものを超越して、集団的自衛権を広義に捉えて、
もう一回考え直してもいい時代に、否応無しに来ている様な気がします。そう
いう政治的なことに関してあまりメンションする立場にございませんけど。音
楽番組なので。」

・What's Going On

「私にとってのメッセージソングの最高峰の1曲。今から30年前、ベトナム戦
争真っ盛りの時の傑作。でも30年経っても何にも問題は解決していない。それ
でも歌は続けていかなければならない。それが歌の役割という感じがします。


・プレゼント
『Bon Appetit!』グッズ。4アイテム6パターン。9月一杯まで応募。
(1)Tシャツ(メンズ/レディーズ) 各10名
(2)エプロン(メンズ/レディーズ) 各10名
(3)ランチョンマット 10名
(4)キッチンツールセット(耐熱メラニン樹脂) 10名

「君の声に恋してる」モノラルバージョン当選者発表は来週。

・SSWの音楽

「ヒーリングミュージックというのは、いろいろなパターンがありますが、や
はり内省的な音楽がいい様であります。そうなるといわゆるSinger
Songwriterというか、そういう人たちの音楽がいわゆるそういう心の休まる
空気を運んできてくれます。」

・コメント

「中東問題を5分や10分で論評なんかとてもできませんけど、ああいうことが
起きるとアメリカはもう火の玉と化しますから。その結果また新しい憎悪とい
うものを生みまして、そういうことが悪循環でどんどん続いていくのを見てて
なんともやりきれない気持ちになります。でもこういう事件が起きますと、音
楽業界で日頃繰り広げられている、何枚売れただの、誰が一位だの、これがロ
ックだのロックじゃないだの、そういうこうちまちましたご託宣や一喜一憂が
本当にバカらしい物に痛烈に見えますし、そういうことを思い知らされます。
そういうことを戒めにして、先生きて行かなければならない、そういう感じで
あります。」

・リスナーより

リスナー:しつこいようですけど葉書を沢山読むなどして、もう少し長い時間
放送してもらう訳にいかないでしょうか?ギャップがありすぎて他の放送が聞
けないです。

「ありがたいご要望ですが、それはTOKYO-FMの編成の方々の胸先三寸でござ
いまして、私にはどうにもなりません。2時間番組にすると冗長になりますん
で、55分、このぐらいの腹八分目で僕はいいところなんじゃないかと思いま
すので、一つヨロシクお願いします。特に忙しくなってまいりますと、この5
5分でも結構ひーひー言っておりますんで。今後ともいい番組作り目指して行
きたいと思っております。」

・最後のコメント

「我々の様に音楽に携わっている者にとっては、平和というのがとっても重要
なんですけど、平和平和と口だけでお題目で唱えても平和は来ない訳で、そう
いう意味でこの国の政治家がもうちょっと政治的に強かさがあるといいなと感
じてしまいます。」

今後の予定

・9/23は「(普通の)棚からひとつかみ」。
・余裕があれば9月最終週にDavid Gates特集を予定。
・10月頃にライブ特集をやる予定。
・10月末〜11月にCarole Kingの特集を4週間予定。


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