達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン

2000/01/02 Sunday Song Book「新春放談 パート1(ゲスト:大滝詠一)」



大滝詠一/Rock'n'Roll お年玉 1977『Niagara Calendar』
山下達郎/Angel 1999『On The Street Corner 3』
竜ヶ崎宇童/禁煙音頭 1978『Let's Ondo Again/ナイアガラ・フォーリン・スターズ』
細川たかし/レッツ・オンド・アゲイン 1992 Single
大滝詠一/幸せな結末 1997 Single

一節
美しいビーナス(加山雄三)

内容の一部(前半のみ。これでも要約したつもりですが困難。ほとんど書き起こし)

・PCライフ

達:去年は全然お会いしませんでしたね。Live来ていただいて、それだけでしょ。
詠:まるまる一年。珍しいね。
達:電話も年に2、3回長電話するんだけど、それもなくて。
だから大滝さんは去年何をなさっていたんだろうという。近況というのが。
時々メールを出すんですが、大滝さんは朝に出しても夜に出しても、
いつでも15分以内に返ってくると言う不思議な、いつ寝てるんだろう?
詠:最近、古い友人がEメールを送って来たんですけど、朝方でしたね。
自分で朝方に送っておいて、すぐに返事が驚いたというんだけどね。大笑い。
達:だけど大滝さん、パソコン通信やってたころからそうでしたね。
詠:やってましたねパソコン通信。10年ぐらい前じゃないの?
達:そんなになりました?PATIOやってたころから。
詠:その前のころから。萩原健太君に導かれて。87,8年ぐらいからかな。
達:そんなもんでしょう。パソ通が一般化したのもそれぐらい。
インターネットも5,6年。大滝さんは自分のサーバ持たないんですか?
詠:どうなんだろう?ちょっとやって見ようかと思ったんですよ。95年に。
忙しくなりそうだからやめた。なんかね。忙しそうだよ。
達:(笑)でも最近のモバイルライフで十分に忙しそうにしてるじゃないですか。
完全にミュージックライフがPCライフへと転換して。
ムービーライフはどうなったんですか?
詠:うん。ムービーライフも。ミュージックライフと10ビートも含めてね。
達:わからない(笑)。
# 私もわからない
詠:いいんだよ、スッと行こう(笑)。ムービーライフもオールインワンパッケー
ジなんだよ。
達:まあ、あれだけ何でもかんでものめり込めばね。
5年ぐらいワーッとのめりこんで、そんなことあったっけねって顔をしてね、
下駄履きで来る訳でしょ。それが好きなんですよね?
詠:知ってるでしょ?
達:僕は知ってますから(笑)。

・風街ミーティングと加山さんのイベント

達:ところで、この間の松本(隆)さんのミーティング。
あれで他の三人一緒にやったじゃないですか。
なんで大滝さんはいないんだって葉書がすごく来てるんですけど。
詠:いやー、テレビが入ったから。
達:僕と同じなんすね(笑)。
詠:ラジオだと思ってたのよ。大体制作スタッフが全員、去年のポップス伝の
人達だったので。だからこういうのあるからって聞いていたので。
でもテレビが入るんだってね、凄いねこりゃ、大々的なんだ、って。
達:テレビで出ると大々的(笑)。人の事を古いって言えませんよ。
詠:それは別にして、僕はラジオというメディアが昔から好きなのよ。
ねー、ほんとラジオはいいよー。
達:私、この間の加山雄三さんのイベントで、私の所だけ切れてましたからね、
テレビ(笑)。
詠:なんかいちゃもんつけたの?
達:いえいえ、事務所。
詠:(笑)何言ってんだよ。
達:自分でいちゃもんなんか付けませんよ(笑)。やくざじゃないんですから。
詠:出てたんだ。俺見てたよ。
達:最後全員で「Caravan」やったところと「Wipe Out」。
詠:それ、ギターで参加しただけでしょ。
達:途中、僕2曲歌ったんです。「ブーメラン・ベイビー」と「美しいビーナス」。
詠:あーそう。♪タリラリラー、って奴?
達:♪あー、美しいビーナス、って奴。
♪たーとーえー、ってハモるところあるじゃないですか。
詠:君向き。
達:(大笑)しょうがない。

・ウルトラマン

達:ラジオの質問も沢山来ているんです。どうして「Go! Go! Niagara」は復活
しないんだって。
詠:あー、あれはラジオだったんだね。
達:(笑)
詠:これも考えたのよ。聞いてよ。
いや、やっぱりね。忙しくなりそうな気がする。
達:(大笑)忙しいのそんなにいやですか。
詠:いやだね。「Go! Go! Niagara」とか、定期がやだなあ。
達:定期的にね。一週間に一遍とかね。
じゃあ、気が向いた時に、今月は第2日曜にやってみようとか、
今月はもう止めちゃったとか、そういうんだったらいいんですね?
詠:それもだめ。テンションがね、2,3分ぐらいしか持たない。
達:なんなんだ、それ(笑)。
詠:だから、今からやると。今から、よしやるぞ、と。
達:カブト虫じゃないんだから(笑)。
詠:なんだよそれ、どういう例えなんだよ(笑)。
達:ウルトラマンだよ、それじゃ(笑)。
詠:そうそうそ、俺それぐらいしか発火してないというかさ。
達:俺、だんだん高田(文夫)さんみたいな立場になってきたなあ(笑)。
詠:例えば、今お風呂に入りたいなと思って、3分過ぎるとね、
あ、入んなくていいかなって思うのね(笑)。
その3分以内にパッと言ってしまわないと、思ったことがスッとどこか行っ
てしまうという癖がある。
達:それで51まで生きられりゃ幸せでしょう(笑)。
詠:どうもお蔭様で、ありがとうございました(笑)。

・2001年問題

達:そうかなるほどね。結局全ては忙しくなるのが嫌だと。
で、初めからジョーカーから切っていくとネタがなくなるから。
詠:ハートの2ぐらいのとこから。
達:ちょっと9のとこだけ止めとかないとダメじゃないですか(笑)。
一番(葉書が)多かったのは、この間の松本さんの。それとラジオしないの
かと。後、言うまいと思えど(笑)、もう2000年でしょ。
いよいよ2000年な訳ですよ。
詠:あら。いつの間に(笑)。断りもなく。
達:知ってか知らずかわかりませんけどね(笑)。
詠:電報も来なかった(笑)。突然に来やがったな。
達:2000年問題なんてものがですね。
でも大滝さんの場合は2001年問題つーのがある訳ですよ。
詠:ふーん。でも君んとこは2000年問題はないんでしょ。
達:うちはお蔭様で。
詠:良かったよ、Doo Wop。
達:あ、そうですか(笑)。ありがとうございます。

・Angel

詠:「Angel」って入れてなかったんだ。前どこかで聞いたよね。
達:いや、一度も。
詠:昔歌ってたじゃない。
達:それは福生のスタジオでですよ。
詠:「Angel」が良いって言ってた時期があったじゃない。
達:あります。あのShadowsのオケがね。
詠:Cliffのバージョンが先だって言ってなかったっけ。
達:そう、僕が聞いたのがね。
詠:という話を随分前、20年以上前だね、前に聞いていた気がしたなあ。
達:そういう記憶がごっちゃになっているんですよ。
詠:だからあの「Angel」を聞くとその頃を思い出すんですよね。
達:なるほどね。手塚さんの「火の鳥」みたいな世界ですね。
詠:なんなんだそりゃ(笑)。
達:記憶がもうカオスのようになって。
詠:あれは懐かしいんですよ、私にとっては。
僕はああいうElvisのカバーができない訳、判ると思うけど。
達:(笑)わかります。
僕はElvisのオリジナルを聞いていると、大滝さんのボーカルスタイルは
Elvisの影響を受けているっていうとおかしいけど、そうなんだなって。
詠:そう思って聞いているんだろうなっていう風に、俺が思うんだよ、また。
達:(大笑)しょうがない。
詠:だから二重三重の面白みがあるんだ。
達:わかる(笑)。
詠:わかるでしょ?わかるんだよなあ。
達:誰もわからない、聞いている人(笑)。
詠:いいんだよそんなことはどうでも。
君が歌うということに関して言うと、まるで0.0001%も何も皆無で、
そこをこう来ない訳だからさ。ていうことを考えつつ、聞くのも又興味深い。

・世代のタイムラグ

達:最近「ミュージック・マガジン」という雑誌の取材があって、今編集長を
している高橋君という若い人から「山下さんは自分より5つ上ぐらい上の
人の、反抗心とか畏怖とか含めて、影響が凄く強いんじゃないか」と言わ
れたんです。自分とある程度のタイムラグを共有できる部分というのが。
大滝さんの方が僕よりまた更に古い物が好きなんでしょう?
詠:ジェネレーション的にそうなんじゃないですか。高田(文夫)さんが(立川)
談志さんとか。我々の世代は10年ぐらいのタームなんじゃないですか。
達:逆に今の20代の人がはっぴいえんどをカバーしたりとか、20数年のタイム
ラグを越えて聞いちゃったりする訳だから。そうするとどうなんでしょうね?
詠:どうなんでしょうね?本当に新鮮に聞こえてるんですか?
達:でしょ?そうじゃなかったらこんだけカバーが出て来るのが不思議じゃな
いですか。この間の松本さんのだって若い人が、はっぴいえんどに限らず
松本さんの作品をカバーしている訳でしょ。僕等が20歳の頃には考えられ
なかった。
詠:あの頃の20年前だとすると1950年だから、ちょっとトニー谷とかね(笑)。
達:(笑)私の生まれる前ですから、それこそ「お富さん」の前ですからね。
詠:戦後すぐだから「東京ブギウギ」とか。それをカバーする?70年代に?
達:すごくストレンジですよね。
詠:そうだよね。モップスの様な解釈の仕方しかないよね、当時としては。

・代打人生

達:でも、大滝さんはその年代にしては、プリロックというか、日本の歌謡曲
への興味があった訳じゃないですか。
詠:自然にね。
達:それはだけど、生まれて育った岩手だって一般的センスじゃなかったでしょ?
詠:それは最近自分でも考えたりするんですけど、外に出なかったんです私(笑)。
達:内っ子だったんでしょ?
詠:だからラジオが父親みたいなもんだという話を前にしたと思うんですけど、
ラジオとかレコードプレイヤーとかでずっと生きて来た気が最近するんです。
で、これも何度も話していると思うんですけど、代打人生なんです。
達:(笑)
詠:行事を真似事をしていたら相撲部に引っ張られてったとかね。
野球のスコアを書いてたら、お前野球部に入れと言われたり。
どうもこの音楽もたぶん何かの代打。はっぴいえんども、歴史的に見ると
小坂忠さんの代打の様なものでもありましたからね。
そういう意味でいくと、ずっと代打人生ですよ私。
達:でも代打でホームラン打ちまくってきた人生とも言えるじゃないですか、逆に。
詠:ホームランとまではあれですけど、代打が好きなのよ。
あぶさんの様なああいう在り方が。わかるでしょ?
これも最近よく使う例えなんだけど、4時ぐらいから球場に入って、
6時から試合したくないのよ。
達:(笑)
詠:試合開始から。8時半ぐらいまでは見ていたいのよ。
達:8時半の男ですね。でも一番おいしい所を持っていく。
詠:世間的にはおいしいって言うけども、でもそれをやる側に立たされてみる
と、凄いですよプレッシャーは、普通は。ところがプレッシャーと思わな
いからね。
達:知らない内にやっていた、という奴ですね。

・12人の確認男

達:最近、業界の人によく聞くんですけど、この間Liveで大滝さんにお会いし
たと。ロビーで目の前を歩いていった時のオーラの凄さに。
詠:去年Liveなんてどこにも行ってないよ。映画館も行ってないなあ。
達:そういう奴にどこか行ったことあります?
詠:ない。誰かと間違えてんじゃないの。
なんか、でも俺がなんか会ったとか言ったとかって話、ぐるっと回ってくるよ。
誰にも会ってないけど。
達:本当(笑)。
だけどホテルのコーヒーショップで誰かとお茶飲んだ帰りに誰かが見たとか。
詠:わかる訳ないじゃん、見たって。
達:知っている人は知ってるじゃないですか。
詠:いやー、業界で俺の姿を見て、
達:つちのこだよ、それじゃー(笑)
詠:大滝詠一だと確認できる人は12人ぐらいしかいないんじゃないかな。
達:12人の確認男(笑)。
詠:12人居りゃ裁判できるからな。
達:今のベクトルはおんなじ(笑)。どうもオチを考えるようになると年寄りだっ
ていうけど。ボケとツッコミって昔さ、そんなに考えてなかったけど、
やっぱり周りの高田文夫さんとかの話聞いていると段々、自動機械みたいに
そういうノリになってきません?
詠:でも会話を弾ませるところは餅付くと同じでさ、付く人と返す人が居て、
一つのおいしい餅ができるんだ。新春に相応しいや、この例え。
達:(笑)
詠:やっぱり御雑煮を食べながらだよ。カルタをしなきゃいけない、これがね。

・餅の話

達:大滝さんは御雑煮はどっちですか、仕立ては?すましですか、味噌ですか?
詠:いやあんまり食べないんだ。あんまり御餅って。
あれって非常食なんじゃないの?
達:(笑)いや、だから正月は飯を作らないんで、おせちもお餅も保存食だから、
ああいう物なんですよ。
詠:ここで言ってないかな?(林家)正蔵さんの話。
達:いいえ。
詠:(林家)木久蔵さんの持ちネタ。お供えじゃない、あれ(鏡餅?)を食わなく
てカビが生えたという。
で、師匠に「師匠、カビ生えちゃったんですけど、どうしましょう」って
言ったら、正蔵さん「ばかやろう。早く食わねえからだ」つって(笑)。
あんまり似てない物真似で申し訳ない(笑)。
達:(笑)いや似てた。「ばかやろう」っていうところがいいの。
詠:あれが好きだな。カビ生えたからどうしようかってことじゃなくてね。
達:おせちもあんまり召し上がらないんですか?
詠:そこそこ。まあ、あんまりおいしいもんじゃないよ。
達:だから、主婦が食事を作らなくていいように、保存食がおせちになってる
んですよ。
詠:ああそうなのか。
君はちゃんとやるの?しっかり。やるでしょうね。形式に乗っ取って。
達:(笑)
詠:何風とかあるわけでしょ?
達:家は母親が仙台じゃないですか。だから仙台と東京のちゃんぽんですね。
一応すましの角餅で、鳥ガラのダシで、人参と大根の千切りみたいなのを
乗っけて、それで三ツ葉をあしらえるという、どこにもないんですよ。
折衷ですね。
詠:いいね。そういうのちゃんとしていると思っていたよ。そういうのはやる
べきだよね。偉い。
達:(笑)そういう他人事って収まっちゃうてのがすごい。
詠:何言ってんだよ(笑)。

・年越し掃除

達:だけど、大滝さんはお正月はどうやって過ごしてるんですか。
詠:掃除。年末からやっても終んない訳よ。
達:(笑)年越し掃除ですね。
詠:ずっと延々3月ぐらいまで掃除してんのよ。
達:それも3分以内に始めるから、年越せるんですね。
詠:始めると延々。もうこれが終らない。
達:税金の計算まで始めると終らないですね。確定申告が終ってもまだやって
いるという噂があるぐらいで。
詠:なんだよそれ(笑)。そんな払う程ないから計算することないんだよ。
とにかく始まったらどっかまで行くね。
だからPCライフも10年ぐらい。
達:(笑)ほぼ10年ぐらいなりますね。
でもここんとこ数年間はモバイル一辺倒じゃないですか。
詠:うーん、大体来るべき姿というのが見えたらね。
達:(笑)来るべき姿って、何にとっての?
詠:よくわからない。自分に(笑)。
達:(笑)

・レーベル契約

達:今から考えると、2年で4枚でしたっけ。
詠:3年で11枚。アルバムだよ。
達:1年4枚ね。
詠:3年で11枚と15年でシングル1枚で。これでようやくチャラってことで。
達:(笑)ならしゃね。18年で11枚。まあまあペースでしょう。
だけど3年で11枚って、どうしてそうなったんですか。
詠:うー、だから出来ないって言っちゃえばよかったんだなー。
達:ナイアガラって大滝さんの個人レーベルだから、普通に大滝詠一って人がね、
普通のミュージシャンとして普通にレコード会社と契約するするんだったら、
そんな契約しなくたっていいじゃないですか。
詠:レーベル契約っていう世にも不思議な、世界にない形のディストリビュー
ションって言うんだか、やっぱ実験行為だったんじゃないの?
向こうにしてもこっちにしても。だからお互いにどうなるか全くわかんな
かったんだよ。まあ、やってみました、こうなりましたってことなんだよね。
達:でも、そのお蔭で『Let's Ondo Again』とか、物凄いのが出て来ましたか
らね。
詠:そうなんだよ。あの辺の怒りをね。
達:禍転じて福となすというかね。
詠:逆手にとってどうだ、みたいなことでやったから、まあそれはそれで面白
かったけどね。そういうのもないと何も起きないもんだね。
達:いや、偶然がやっぱり生んだ、凄いあれですよ。
詠:たまたまね。だから才覚とかじゃなくて状況がそうさせたんだよな。
だから今ああいうことをやれったってダメですよ。
無理無理。状況がさせたんであって、才能がさせたんじゃないから。
達:(笑)読んじゃいますもんね、今だったらね。
詠:(笑)そういうことなんですよ。
達:だけど、あの「禁煙音頭」で「煙が目にしみる」でむせて、あれでこれい
い曲だなって思ったんですよ。だからわからないもんですよ。
詠:だから『On The Street Corner』の母だよね、「禁煙音頭」は(笑)。

・吉田保と音頭物

達:あのね、それで細川さんの「Let's Ondo Again」にリクエスト来てるんです。
詠:ああ、いいね。ミックス違いもあって、そっちもいいんだ。
達:じゃそっちかけましょ。
詠:ないんだ、原盤が。
達:えっ?嘘(笑)。
詠:そうそう、俺聞いたんだけどね。良かったなあれは。
達:(笑)誰がミックス?自分でしょ?
詠:いや、違うエンジニアが最初一回やったの。
達:じゃあ売っているのは、大滝さんがご自分でやったの?
詠:いや、あれは保さんだよ。
達:あー、吉田さんですか。へー。吉田さんもいろんなことを。
吉田さんはとにかく、チャンチキが死ぬ程嫌いだって言ってね。
詠:そうなんだよ。本当嫌がるんだよ(笑)。三味線もやなんだよね。
達:あの人の方が、僕等より全然バーチャルですよね。
詠:それ言えてるね。
達:土着なものを物凄く嫌いますよね。
詠:「Happy Together」の世界ね。Imagine Me and Youの世界だよ、保さんは(笑)。
達:そうそう(笑)。
詠:だから僕なんか、あなたがよく言ってたアーシーだという、割り合い地面
に近い、重心が低いものを、ああいう風にきらびやかにしてくれるからね。
達:(笑)意外な方向性でしょ?
詠:そういう感じにしてくれるから。全然自分にないものだから。
達:なるほど。

・リスナーの想定

達:葉書がくる奴は、こういう手が一番多いですね。
詠:しかしみんな個的に、それぞれ楽しんでいるね。
達:いや、凄いですよ。
詠:そーんなもんかね。でもね。作った方てのは、作ってる時の作品の思い入
れとかはあるけど、どう聞かれるとかという想定が全くないからね、ナイ
アガラの場合。
達:(笑)そーですか?
詠:そう。よくこういう風に楽しめるなって教わるよ。
達:だけど例えば「Let's Ondo Again」を作ったときには。
詠:(聞き取れず)
達:(笑)いや、だから「Let's Ondo Again」はそうでしょうよ。
例えば「禁煙音頭」は?
詠:あれはおちゃらけだよ(笑)。単なる何だってことはないんだよねえ。
達:(笑)じゃあ、『ロンバケ』とか『ゴー・ゴー・ナイアガラ』とか『ナイア
ガラ・カレンダー』とか、あのコンセプチャルなものに対しては。
詠:あれはPresleyの「I Need Your Love Tonight」のジャケットの12月分の
カレンダーだよ、シングルの。あれ見ててさ。「おっ、カレンダー。ナイ
アガラ・カレンダー」(笑)それだけじゃない。幽霊の正体見たりだよ、こ
んなもん。

・二極分化

達:最近ね、完全に二極分化してますね、葉書が。
詠:あー、そう。
達:あの「大滝さんは普段はどういうことをしている人なんでしょうか」という。
詠:それって延々あるよね。昔っから言ってるよね。
達:そういうのと、あと。
詠:巨人をどうかしろと(笑)?
達:いや、このね、まずこれですね。栃木県のK君という人が、えー、ポップス
伝の文字起こしを全部、この。
詠:えー!マジー!?何だこりゃあ?何?どうしてこんなことを。
あっらー、すごいね!
達:(笑)
詠:何してる人?この人。俺が聞きたい、この人普段何してるの?
達:(笑)「4月の長女が生まれ、いろいろと考えた結果、私がナイアガラと出会っ
た頃に思いをはせたカレンと名付けました。これで長男元春、次男達郎と
三人になりました。」(笑)
詠:本当もう、真面目に生きろよ、おい。そういうことしないで。
達:「それでこの子達をナイアガラ・トライアングルとして公認してもらえま
せんでしょうか(笑)。よろしくおねがいします。」
詠:そういうのちょっとまずいんじゃないの(笑)?
達:「えー他局のものではありますが、ナイアガラーとして日本ポップス伝2の
写経に励んで参りました。」
詠:写経!
達:「各回のジャケットも作ってみました。僭越ながらご奉納したく、贈らせ
ていただきました。」
ね?二極分化してるでしょ。すごいでしょ。
詠:参ったなあ(笑)。どういう人なの?これはちょっと驚いたなあ。

・バージョンチェック

達:で、こちらはですね。
詠:まだあんの!
達:神奈川県のNさんという人ですね。
この人は大滝さんの全ての音源のバージョンチェックを全部してるんで。
詠:あっらー!わかんないことがあったら聞いてくれって?(笑)
達:そうですね。で、フロッピーのデータも(笑)、何頁ありますかね。
150頁ぐらいありますかね。
詠:バージョン違い?へぇー(笑)!
達:こんなの自分じゃできないですよね(笑)。
詠:やる気がないからね、最近。
ある一時期まで、自分のコレクションとかなんとか、自分史をやり始めて。
で、どっちかというとバージョン違いなんてことをいつも自慢するけど、
日本の音楽界で言い始めたのは私じゃないですか。
達:(笑)全くその通りです。
詠:なんだけどね。本当にこの頃、ここ一、二年ぐらいね、異常にどうでもよ
くなってきたの。
達:(笑)物が多くなってきたらからですよ。
詠:あーそうか(笑)。いや、でもこういうことをやる?
だからね、自分でまとめようって気がもうなくなったのよ。
達:そりゃーもう、だから後輩に任せればいいんですよ。
詠:そーそーそーそ。こういう人達がいっぱい居るから。
でも驚いた。何なんだかね(笑)。
達:凄いでしょ(笑)。
詠:すごいね、これはちょっと言葉失ったなあ。

・恩讐の彼方に

達:でも、そうやって大滝さんに凄いねって言って欲しい為に、
やってるんですよ、みんな。
大滝さんに言われりゃもう、いつ死んでもいいっていうかね。
詠:何言ってんだか(笑)。赤穂の四十七士じゃなんだからさ。
達:(笑)「恩讐の彼方に」ですよ。青の洞門ですね。
詠:(笑)例えが古いって、だから言われるんだよ、高田さんに。
達:今だったら何といいのかな?じゃあさ(笑)。
詠:持って来る例えがいいんだよな(笑)。
でも、あの話は俺は好きなんだよ。
達:僕も好きですよ(笑)。あの何度も何度も皆が馬鹿にして、
最後に今度こそは皆一生懸命やるだろうと思うと、また馬鹿にしてね。
あのしつこさ。
詠:(笑)そーなんだよ。結構、少年時代にあの話は感銘受けたんだよ。
あれなんじゃないの?二人の元は。
達:(笑)あれ、最初は敵討ちだったって、最後はしっかり忘れてるんですよ。
詠:それがおかしいんだよね(笑)。あれがいいよね。
達:それと同じようなもんじゃないですか、これ。
もうこれ完全にデータ作るのを自己目的化してますよね。
詠:まあ、ある意味で全くその通り。
達:凄いですよ。やっぱりほら、ナイアガラ関係のホームページ、
凄まじいじゃないですか。
詠:最近ちょっとノンアクティブの人が増えてるみたいだけどね(笑)。
もうくたびれてきたんじゃないかな。

・大滝さんの快感原則

達:(笑)ところで、大滝さんのホームページ、ひと頃盛んにやってたのが、
開店休業になってるじゃないですか。
詠:えー。もうあんなもんでしょう。
達:あんなもんなんですか?
詠:だからその、まあ何度も、今年のキーワードだけど、忙しくなりそうだから。
達:(笑)忙しくなるのがいやだから。
詠:嫌だね。なーんかねー、だめだなー。むずかしーね、ああいうのってね。
始めるのはいいんだけどさ。
達:(笑)そうか。だけど、そうなると大滝さんて、そういうプロセスというか、
発想というか、アイディアを作るところの方が、やっぱり実際に完成させる
ところよりも楽しいのかしら。
詠:っていうこと。だからまあその、デモテープがとかが一番楽しいとかね。
世に出ないとか、やっぱり。でもデモテープだけで終った人生というのも、
ここへ来たから言えるのかも知れないけど、それも寂しいもんね。
といいながらも、デモがないのに作品だけ出していくみたいなことは、
到底技術的にも心理的にも、当然無理と言やあ、でしょ?
その辺なんだよね。その難しい頃合ていうか、塩梅というのかね。
達:たまたま歌が歌えちゃったのが悪いんだよね、これがね。
詠:歌えてんのかね?
達:いやいやいや。それがたまたま相撲がそれ並に行ければさ、相撲取りになっ
てた?で、野球がもうちょっと。
詠:(笑)でも全部それダメだったんだよね。
それも全部代打だよ。これも代打だもん。
達:(笑)代打にしてはちょっと長くやりすぎたって奴ですかね。
ミュージシャンというところの。
詠:ちょっと、他に見つけそこなったんだよなあ。
達:でも僕は、一番最初にお会いした時、僕20歳だったじゃないですか。
でも大滝さんを5年6年と見る内に。2年3年経つって奴ですよ。
やっぱり大滝さん、行為者、表現者としてはミュージシャンとしてやるの
が、一番コンフォタブルというか。他と比べてね。
物書きでもラジオのDJもあるし、いろんなファクターがあるけど、
でも自分が行為者で、人前でライブをやるとかじゃなくて、レコードという
バーチャルなものを作るって意味においてはね、そういう物を構築するのに
関しては、一番自分にとっては快感原則にあってんのかなっていう感じは
したんですよ。だから『ロンバケ』出した時にもそう思ったし。
だから結局、作品だけはたとえ15年に1枚と言えども。
詠:お蔭さんでね。
達:でも、それってたった一つの大滝さんの継続っていうか、
絶対に、だからまた多分出すと思うけど。
それはやっぱり大滝さんの快感原則には一番合ってんのかなってことは
思うんですけどね。
詠:(笑)そうかも知れないね。おっしゃる通り。

・再び2001年問題

詠:つくづくね、ふっと我が身を振り返ってみて、15年。
ま、一応ね、とりあえずそういう音楽家のリストにあるんだろうから、
15年でシングル1枚という結果になってしまいました。
達:(笑)
詠:これ一つ、何かの記録として認定して頂きたいって気がするし。
まあ、それもこれもね。何度も返す返す番組のシメの様で何だけど、
この番組に連続して出てたからだと思うけどね。間違いなくそうだね。
達:(笑)何だかんだで84年からですから16回目になるんですかね。
途中で1回抜けているから15回。
詠:まるまるじゃないよ。新春放談期間中、あの新曲1曲だったんだよ。
達:(笑)でも『Each Time』が出る直前だったんですよ、最初の奴。
詠:あっそう。84年は出たんだね。シングルも出したし。ふーん。
達:でも何だかんだいって人に曲書いて、そしたら自分の作品以外にも
随分とやってらっしゃるんじゃないすか?
詠:曲は10曲はないんじゃないかな。ないと思うよ。だから1年1曲もない。
達:でもプロデュースがあるでしょ?
詠:うーん、もう3つか4つぐらいでしょう。世に出なかったのが又3つか4つぐ
らい。だけどお蔭様でしたよ、本当に。
達:いやいや(笑)。それで2001年。
詠:まだ2000年じゃないの、今年。
達:だから2001年問題はどうなるんでしょうか?っていう。
詠:ナイアガラの2001年問題ね。
達:そうですよ。
詠:まあ、オチはあるんだけどね。来年のことを言うと鬼が笑うから。
達:(笑)でも絶対答えを用意している。来年の2001年1月の3日かな?
来年はそれ用の用意は絶対してあると思いますがね。

# 来年の放談は1月7日からですね。
# あー、今年最後のSSBは大晦日か。

今後の予定ですが

・2000/1/9も大滝詠一さんを迎えての「新春放談 パート2」。



circustown.net による放送書き起こしです。文責 circustown.net。抜け誤りはお知らせください。


Copyright (c) circustown.net 1999 - 2006, All Right Reserved