達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン

1999/11/14 Sunday Song Book「『On The Street Corner 3』特集(後半)」



山下達郎/Don't Ask Me To Be Lonely 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*1
The Dubs/Don't Ask Me To Be Lonely 1957 *1
山下達郎/Love You So 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*2
Ron Holden/Love You So 1960 *2
山下達郎/Love T.K.O. 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*3
Teddy Pendergrass/Love TKO 1980『Tp』*3
山下達郎/Why Do Fools Fall In Love 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*4
山下達郎/Heavenly Father 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*5
The Castelles/Heavenly Father 1955 *5
山下達郎/Love Can Go The Distance(Album Remix) 1999/11/25発売予定『On The Street Corner 3』*6

内容の一部(鈎括弧内は達郎氏のコメント)

・近況
「雑誌と新聞の取材が一段落。今週からはラジオプロモーションが本格化。」

・業務連絡
オンスト1と2は1/26にボーナストラック入り全12曲、リマスターして再発。
「アナログも出すが、それより遅れる。ちゃんとしたものにしないといけない
ので、少しずつやって行きます。」

キャップ(CDの帯)にシールがあり、それを1、2、3と集めると、特別ボーナ
スCD『On The Street Corner 0』を「洩れなく」(!)プレゼント。
「えぐい商売をやろうということです。内容は未定ですが、あっと驚く内容に
なると思う。お楽しみに。アナログの場合はEPで提供する予定。」

・前振り(大体先週とおんなじ。でもちょっと長い)

「『On The Street Corner』はア・カペラ(A Cappella)のアルバム。ア・カペ
ラというのは、無伴奏、楽器を伴わない音楽。一人で歌ってもア・カペラです
が、私の場合はコーラス、それも全部自分一人の声の多重録音でやっている。
これに私は"ワン・マン・ア・カペラ"という造語を付けた。いわゆるバーチャ
ルな世界。ここでやっているのは、半分くらいはドゥー・ワップ(Doo Wop)と
いう音楽。1950年代の米国の主に大都市、New York、New Jersey、
Philadelphia、Detroit、Chicagoなど、West Coastとかもあるが、そうしたと
ころには黒人の低所得者層が住む一角、俗にハーレム(Harlem)とかゲットー
(Ghetto)とか言われる地区があり、そこに住む子供達はお金がないので楽器が
買えなかった。そこで彼らはア・カペラのコーラスと手拍子のみで音楽をやっ
た。練習する場所がないので路上とか、または地下鉄の階段、学校のロッカー
ルーム、トイレなどは天然のエコーのあるので、ここでア・カペラのコーラス
を3〜5人位でやっていた。Rock'n'Rollの黎明期なので、Rock'n'Rollのカバー
やオリジナル・ソングを歌い、そうした中から50年代の始めにハーレムやゲッ
トーからのア・カペラのコーラス・グループが出て来て、一人のリード・ボー
カルにバックでウーとかドゥー、ワーとか言うので、いつしかこれをDoo
Wopと呼ぶ様になった。同時にストリートで行われるそうしたコーラス・グルー
プに対してStreet Corner Symphonyという呼び名も出て来た。この『On The
Street Corner』というアルバム・タイトルはこの用語から取った物。若い頃、
中学〜高校と10代の頃はコーラスが好きで、段々遡るとそうしたRock'n'Roll
のコーラスの原点はDoo Wopという私が生まれた頃の音楽にあると判ってきて、
ずーっとDoo Wopに泥沼の様にのめり込んで来た。プロになってからはDoo
Wopのグループをやりたかったが、Doo Wopはあまり日本でレコードになってな
かったので、日本ではあまり認知されてなかった。で、Doo Wopと言っても
「えー、何それ?」。そういう人に教えても、本当の意味での僕なんかが感じ
るDoo Wopとかやれないので、それなら一人でやろうと。一人多重録音でDoo
Wopをやり始めたのが1970年代の中頃。それで作ったバックをカラオケにして
ステージでやったところ妙に受けました。それが何曲か重なっていって、80年
に最初にブレイクしたシングル、そして最初のNo.1アルバム『Ride On Time』
が出ましてね、今っきゃこういうマイナーなことやって世の中に出せる時はな
い、これを逃したら2度とレコードは作れないと思って、限定盤という形で出
したのが『On The Street Corner』の最初のアルバム(『On The Street
Corner 1』)。その6年後に『On The Street Corner 2』、そして更に13年後に
『On The Street Corner 3』を出す運びとなりました。今ではそうしたア・カ
ペラやドゥー・ワップという言葉も一般的になりました。大変ありがたいこと
です。それに味をしめて『On The Street Corner 3』世に問うてみようという
ところです。」

・*1 Don't Ask Me To Be Lonely
1957年 黒人ボーカルグループThe Dubsの出世作。典型的なDoo Wop Song。
他には「Chapel Of Dreams」が有名(『2』でカバー)。

「『ダイアモンドでも星でも何でもあげるから、僕の事を一人にしないでくれ』
という、いかにもDoo Wop Songらしい良い内容の荒唐無稽な曲。」

「50年代のDoo Wopは今で言うところのIndiで、スタジオですらない、どこか
の家の中で録られたレコードばかりで、一発録りで音が悪い。しばしば歌がも
ぐって歌詞がよくわからない。こうした問題はオンストのプロジェクトには付
いて廻り、歌詞がはっきりしなくて出来ない曲が沢山ある。この曲も昔からや
りたかったが、特にサビの終りのところが何言ってんだかわからなかった。実
は1964年にリレコしたバージョンがあって、これがめちゃくちゃ高かったんだ
が、数年前にCD化され、しかもステレオ。これの聞き取りで初めて歌詞が判明
し、やっとレコーディングできた。」

「Dubsはアーシーな感じだが、私のはホワイト・ドゥー・ワップがコピーした
テイストになっている。「Chapel Of Dreams」と同じ。」

・*2 Love You So
1960年 黒人シンガー Ron Holdenの自作曲。Produced by Bruce Johnston

「80年代の中頃にオリジナル・シングルを手に入れ、くる日もくる日も毎日家
でこの曲をかけていた。実はこの曲のオリジナル・バージョンはファミリー・
グループで演っていて、演奏が下手。イントロにクラベスが出てくるがズレる。
これがめちゃくちゃ気持ち悪い。私はそれすらも好きで家で毎日聞いていたら、
家の奥さんが「クラベスが気持ち悪いから、お願いだからやめてくれ」って嫌
がったのを覚えている。」

「実はこの曲はドラムループから始まるが、Ron Holdenのオリジナルのドラム
からサンプリングしたものを用いている。ポスト・モダン的アプローチ。」

・*3 Love T.K.O.
1980年 Philadelphia Soulの大歌手 Teddy Pendergrassのヒット曲。

「80〜90年代にかけての、ハーレム発のブラック・ストリート・ミュージック
は何と言ってもRap、そしてHip Hopという流れ。1980年にオンストを作った頃
はDoo Wopの時代は、『Songs』から『Cozy』までの時系列(時間差)でしかなかっ
たが、90年代の終りでもう21世紀になろうという時代には半世紀前の音楽とい
うことになる。90年代にオンストをやるからには90年代的アプローチが少しは
あった方がいいのではないかと考えた。それでヒップ・ホップ・シーンに不可
欠なものであるドラム・ループを使ってみようと。そうすることで、このオン
ストのプロジェクトが単なる懐メロ・ショーじゃない90年代的なものになるん
じゃないかと思った。」

「物色した結果、選んだのがTeddy Pendergrassの1980年のヒット、大好きな
曲。ブラック・ミュージック的アプローチというよりはSing-Alongを極力排し
た、Beach Boysの『Smiley Smile』のコーラスのような、対旋律が重なって行
くコーラスの編曲手法で作った。」

「50年代のDoo Wopと90年代のRapはストリート・ミュージックという意味で親
子関係、本質的な色彩というか情感はほとんど何も変わりがない。時代背景が
違うだけで。50年代にはなかったラジカセが90年代にはあるということ。」

「何しろ天下のTeddy Pendergrassですから、舞の海が曙に勝負するようなも
のなので、裏技で。Richard Dimples FieldsやPops Staples(The Staple
Singers)のようなスウィート・ソウル路線で攻めてみました。」

・*4 Why Do Fools Fall In Love
Doo Wopの超有名曲。オリジナルはFrankie Lymon & The Teenagers(1956)。
邦題は「恋は曲者」。最近ではDiana Rossのカバー(1981年)も有名。
# 私はJoni Mitchell(Persuasionsと共演)で初めて知りました(1980年)。

「超有名な割には確定した歌詞がわかっていない。向こうの歌盤にも何種類も
ある。10数年掛かり確定した歌詞が判明し、CD化の運びとなった。テイク自体
は古いもので、アレンジも19歳の時に作った自主製作盤と全く同じ。27年も前
と同じことをやっているという、ワンパターンのしぶとさ。」

「全12曲中、今年録音したのが9曲。残りの3曲が数年〜10数年前。これが一番
古くて15年前のテイク。間違った歌詞を差し替えて、15年も前なので大丈夫か
な?と思ったが、声色を変えて出来たという。リード・ボーカルはさすがに若
い頃にくらべておじさんになっている。でもバック・リフはそんなに変わって
いない。安心しました。」

・*5 Heavenly Father
Philadelphia の黒人ボーカル・グループ The Castellesの1955年の曲。
Stylisticsや、Doo Wop時代ならFlamingosなど、後のスウィート・ソウルに影
響を与えたと言われる。

「20代後半になってから知ったのだが、とにかくこの曲は死ぬ程好きで、数年
前にCDが出て、去年あたりは毎晩寝る前にこのCDを聞いた。」

「今回のオンストで最もシンプルな曲。只管、循環コードで行くというか。で
もこれが一番、好きです(笑)。このシンプルこの上ないコード進行、Take 6な
どのどんなテクニカルなコーラスよりも、こういうシンプルな奴が一番好きで
す。」

「Philadelphiaなので「Love T.K.O.」とはこれまた親子のような関係。元は
1952年にEdna McGriffという黒人のおばさんが作った曲。ちょっと宗教的な意
味合いから、天の神様(Heavenly Father)にあの娘の無事を祈るという、はち
みつぱいみたいな内容。」

・*6 Love Can Go The Distance
Album Remix。ハートビートの音がイントロに入っている。
初めてオンストに入ったオリジナル曲。

・「完全に道楽、趣味で始めたアルバムが、よもやVol.3まで行くとは夢にも思
いませんでしたが、誠にありがたいことでございます。でもあるライターの方
に言われたが、テンションとしては『1』より上がっているんじゃないかと。
好きな曲を好きなだけやれている喜びに満ち溢れている。そういう一枚です。」

・尼崎市の小谷さんからお父さんと息子さんへお誕生日メッセージ
宝塚市の岡本さんから宮崎市の田上さんへお誕生日メッセージ
おめでとうございます。

今後の予定ですが
・11/21は「棚からひとつかも」


circustown.net による放送書き起こしです。文責 circustown.net。抜け誤りはお知らせください。


Copyright (c) circustown.net 1999 - 2006, All Right Reserved