達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン

1999/10/10 Sunday Song Book「リズム&ブルース特集」



山下達郎/Love Can Go The Distance 1999/11/10 発売予定 Single
Arthur Conley/Sweet Soul Music 1967 *1
Jackie Brenston/Rocket 88 1951 *2
Hollywood Flames/Buzz-Buzz-Buzz 1957 *3
Ray Charles/What'd I Say 1959 *4
Sam Cooke/Nothing Can Change This Love 1962 *5
Aretha Franklin/Respect 1967 *6
Sam & Dave/I Thank You 1968 *7
King Curtis/Memphis Soul Stew 1967 *8
James Brown/(Call Me)Superbad 1970 *9

*1 全米R&Bチャート(Billboard)第2位。Memphisでの録音。Atlanticレーベル。
Sam Cookeの「Yeah Man」を翻案した曲。「Jungle Swing」にも曲名が登場。
*2 Tenor Sax奏者。全米R&Bチャート第1位。最近RhinoからCD化。Chessレーベル。
*3 Doo Wop時代の人達。全米R&Bチャート第5位。『The Doo Wop Box』(Rhino)収録。
*4 全米R&Bチャート第1位。
*5 全米R&Bチャート第2位。
*6 全米R&Bチャート第1位。Otis Reddingの作品(カバー)。Atlanticレーベル。
*7 「Soul Man」に続くヒット。共にIsaac Hayes & David Porter作。
*8 今は亡きTenor Saxの名手。全米R&Bチャート第6位。Atlantic。
*9 全米Soulチャート第1位。

一節
50年代R&Bのスウィングビート
Soul Man(Sam & Dave)

内容の一部(鈎括弧内は達郎氏のコメント)

・現状
「『On The Street Corner 3』のいよいよフィニッシュ。来週にはマスターが
工場へ行く事になりますか。それとも風邪を引いて、いや実はちょっとという
ことになりますか(笑)。勝負所です。11月25日発売。もうライフワークになっ
てます。」

・特集の前置き

「あ、今の邦楽がかかるのかな?とんでもございません。R&Bという言葉が最
近巷を席巻しております。小さな中学の女の子が「私もR&Bをやりたい」。最
近言葉の定義つけが曖昧になってきて、カリスマなんとかとか、表現が誇大に
なっています。最近の巷で使われているR&Bという言葉を、我々は「ファッショ
ンR&B」と定義付けることとしました。同様にビジュアル系とか音楽的特質を
示さないジャンルはファッション・ミュージックと定義付けました。」

「リズム&ブルースとかロックンロールという用語は50年近くの歴史を持つ、
音楽的スタイルの定義を持った言葉なので、それから逸脱したものはどうそれ
を呼んでも歴史の文脈から離れていきます。そういうことをちゃんと説明しな
いと言いたい放題なんじゃないかと。そういう使命感にかられて、今日は一つ
「R&B特集」。本来のR&Bとは何か?「こんなポストモダンの時代に口憚ったい
事を言ったって、言語はもうみんな崩壊している」なんて手紙も実際にもらっ
ているけど、そういうこととは関係なしにR&Bは歴史的にある音楽スタイルを
持った概念なので、それに対しては一応説明しないといけません。…なんで体
育の日の三連休に堅苦しくて口憚ったいことを言いながら、こんな汗臭い音楽
をかけなきゃなんないのかと(笑)。なりゆきです。たまたまこの日になったと
いうことで。」

「はじめは、ファッション的に使われるR&Bという言葉に反発して、自分の好
きなR&Bをかけちゃおうと思いましたけど、それではあまりに自己満足なので、
もうちょっと学術的見地からR&Bとは何か、歴史的沿革、この50年でR&Bとはど
ういう音楽を指す歴史を持っていたのかということを、55分だからなめる程度
で。文献をあたったりしたので一週間遅れました。」

・特集(達郎氏のコメントの大意)

Rhythm & Blues とは何か?一言で言うと、第二次大戦後のアメリカの黒人(ア
フリカン・アメリカン)の為の大衆音楽である。ダンス・ミュージックを主と
した大衆音楽。この言葉が生まれたのは1949年のこと。それより前の大戦前の
時代は、Big Band JazzやSwingなどのいわゆるJazzの時代。大戦が過ぎると今
度はBop(Be-Bop)、今日のModern Jazzといわれる音楽だが、アドリブなど個人
が自由に演奏するスタイルになっていった。それは余りに自由すぎてダンスに
不適格となり、新しいダンス・ミュージックが必要になった。また当時は大戦
後で軍需産業が盛んで、南部の黒人が北部の都会圏に大勢北上してきた。そこ
で文化のミクスチャーが起こった。いなたい南部産のCountry Blues/Delta
Bluesと、北部のそれまでのSwing/Big Band Jazzが融合して、新しいDance
Musicが生まれた。Jiveとか、Jump Bluesとか呼ばれたが、それが40's末〜
50's頭の話。この辺がR&Bの発祥の音をしている。

50'sの最初はSwing Beat、跳ねるビートになっている。これは40'sのBig
Band Jazzからの名残。この頃からRhythm & Bluesという言葉が使われた。
Rhythm & Bluesとは純粋に黒人コミュニティーに向けての大衆音楽である。そ
れまであった黒人音楽としてはBluesと宗教音楽としてのGospelに大別される。
そのBluesの要素とGospelの要素が商売に継って、20世紀の文化であるレコー
ドに刻みこまれ、その結果 Rhythm & Blues ができた。これに南部の白人の伝
唱音楽の要素が加わるとRock'n'Rollになる。R&B、Rock'n'Roll、共に50'sの
頭から発生した音楽と考えられている。

Rhythm & Bluesという言葉は1949年にBillboard(米国音楽業界紙。日本で言え
ばオリコン)から生まれた。Billboardは1942年にスタート。その頃はRhythm
& Bluesという言葉はなく、当時はHarlem Hit Paradeというチャートだった。
当時の黒人の音楽は20's〜30'sからRace Musicと呼ばれていた(Race=人種)。
何故かというと、当時は白人は黒人の音楽を、黒人は白人の音楽を聞かなかっ
た。文化の線がはっきり分かれていた。従ってNAACP(The National
Association for the Advancement of Colored People:全米黒人地位向上委員
会)でも自分達の音楽を'Music for the Race'などと呼んでいた。戦争が終る
とだんだんと黒人の社会意識が高まり、Raceというのは差別用語だということ
になって、レコード業界でもRace Musicという呼び名が不適切と考えた。そこ
で1949年にBillboardのライターであるJerry Wexler(後にAtlanticのプロデュー
サになり、Aretha Franklinをスターにした人)が'Rhythm & Blues'という言葉
を考えた。同時期にClevelandのラジオDJだったAlan Freedが作った言葉が
'Rock'n'Roll'。どちらも早い話が、白人の子供達に黒人の音楽を聞かせよう
として考えられた用語である。(これで今日の特集は終ったようなもの)

50'sの終りになると、黒人の音楽も白人マーケットに浸透していく。それだけ
のエネルギーを当時の黒人音楽は持っていた。50'sの10年間で、速いDance
Musicや、Doo Wopと呼ばれるVocal Groupと様々に枝分かれしていく。
Rhythm & Bluesの50'sを代表する巨人は何と言ってもRay Charles。この頃か
らSwing Beatが8 Beatへ変わって行く。50'sから60'sへの変化。

以上をまとめると、
「戦後アメリカの黒人音楽が、レコードというメディアに乗って、黒人社会以
外への全世界を巻き込んでだんだん大きくなった。その音楽形式の商品性をよ
り高めるべく付けられた呼び名がRhythm & Bluesということである。」

Jerry WexlerがRhythm & Bluesという言葉を作ったということは数年前に文献
で知って、なるほど、それで60'sの終りにAtlanticから『History of Rhythm &
Blues』というシリーズが出たんだと判った。なるほど、深いな。
(こんなこと、誰も教えてくれなかった。)

60'sに入ると本格的にRhythm & Bluesという言葉が通用するようになる。その
最初のパイオニアがSam Cooke。特に南部の60'sのR&Bに多大な影響を与えた。

(時間の関係で70's初頭までしかできないが、基本的にその辺までカバーすれ
ば、大体のR&Bの概念はわかる。)

60'sになると、それまではDance Musicの色合いが濃かったのが、次第に黒人
の地位向上、公民権運動、黒人であることのプライド('Black is Beautiful')
など、黒人の意識が高まるにつれ、黒人音楽も質的に変化していく。Rhythm &
Bluesは、いつしか Soul Musicという呼称へと変わって行く。そうして Soul
Musicという言葉を表す音楽が60's中頃から終りに掛けて数多く登場する。こ
の辺までが我々の世代でR&Bと呼んでいるものだとお思いいただければ結構。
60'sの女性黒人シンガーの最高峰は、何と言っても"Queen of Soul"Aretha
Franklin。また、Sam & Daveは2人のボーカルが繰り広げられ、"Double
Dynamite"と呼ばれた強烈無比なコンビ。

結論を言えば、Rhythm & Bluesとは黒人の音楽である。黒人のものであった。
あった、というのは今もRhythm & Bluesというものがあるのかというと、ちょっ
とわからない。でも基本的にRhythm & Bluesというのは黒人音楽の事を指し、
だからBlue Eyed Soulという用語が白人のR&Bという意味で、ある一定の意味
を持った訳である。

1949年からBillboardではじまったR&Bチャートは69年まで続き、69年から
Soulチャートになる。これが82年まで続いて、今度はBlackチャートとなる。
その間にUrban Contemporaryとかいろいろ現われ、紆余曲折があって90年から
今日に至るまで再びR&Bチャートに戻った。これが意味するところは何かとい
うと、(今まで聞いていただければなるほどとお思いになろうが、)社会学的背
景が色濃くあるということ。アメリカの黒人の置かれた社会的立場を反映して
音楽の呼称も変わってきた。

余談だが、60'sの日本では普通の人はR&Bを聞いていなかった。暑苦しいとか、
みんな同じだとか言って。音楽に興味のある人はロック、特に英国ロックなど
知的とされるロックを聞いていた。R&Bを聞く日本の主な聴衆は、つっぱりと
かヤンキーとか呼ばれるリーゼントの若者達。彼らが好んだのはRockabillyな
ど初期のRock & Rollと、R&Bだった。そうした中からミュージシャンも誕生し、
Rock & Rollのベクトルからは矢沢英吉、クールズ、横浜銀蝿、R&Bの方からは
ラッツ&スター、バブルガム・ブラザーズなどが登場した。だから大体イメー
ジしていただけるだろうか。最近の渋谷のコギャルとかがR&Bという言葉を口
にするのを聞くと、隔世の感がいたす訳である。

本特集で言いたかったことは何かというと、R&Bという言葉には長い歴史が生
み出した色々な意味が込められている。それを理解した上で自分達の音楽を
R&Bという呼ぶのなら何の問題もない。最近は言葉の意味が崩落して、カリス
マ何とかだとか、自分で自分の事をアーティストだとか、そういう次元で何か
語感が恰好良さそうだとかでR&Bという言葉を口にするには、この言葉の持つ
意味はいささか重すぎる。だから、みっともないからやめた方がいいと思う。

最後に、70年代Rhythm & Bluesの最高峰、James Brownを聞いて終了。

・終ってから
「疲れた!アカペラの仕事をやっている時にこれは大変です。ちょっと後悔し
とります。」

・上田市の柳原さんから、山形市の超常連の方へお誕生日メッセージ
おめでとうございます。

今後の予定ですが
・10/17は『棚からひとつかみ』
・月末には『山下達郎Live特集』を企画。



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